「それで? 葵ちゃんは、俺と何の話がしたいのかな」
「どうしても気になったことがあったので、あなたに直接お伺いしようと思ったんです」
「それを拒否することは?」
「もちろん構いません。ではわたしは、あなたに何も聞かないことにします」
「……というと?」
「あくまで一方的にお話しさせていただこうと思うので、あなたにはただ、聞いてもらえればと」
「……ただ聞くだけ、ね」
「それでもよろしければ、トーマさん。わたしの話を聞いていただけますか?」
「……はあ。勝手にすれば」
「ありがとうございます。……では、トーマさん」
そして葵は、彼の止まっている時間も動かす――――。
「あなた、キサちゃんのこと好きでしょう」
何故そう思ったのか。
それは、“あなたという人”が、素直に『婚約者になる』と言ったから。
「アカリさんからは、『女王様には逆らえなかった』と聞きました。けれどお話を聞く限りあなたには、今回の一件を打破できる術はいくらでもあったはず」
桐生本家が今まで隠してきたという都合の悪いことを、あなたはどうして知っているんでしょう。
「まあそんなことは知ったこっちゃないですが、それでもあなたは知っている」
ならばその弱みに付け込んで、婚約を破棄することはいつでもできたはずだ。少なくともそう考えるでしょう。それに相手は大事な幼馴染み。それで助けられるなら尚更そうするはずだ。なのに、あなたはそうしなかった。
動けなかった?
いいえ、動かなかった。
少なくとも、彼女に気があったから。
「あなた、あわよくばみたいなことを考えていたのではないですか」
沈黙を破ろうとしない彼に、少し言い過ぎたかもと後悔した。でも、まだここで終わるわけにはいかない。
「あなたは、彼女のことも好きだけれど、先生のことも大好きだから、自分の気持ちには蓋をしていた。だからあなたは、彼から電話が掛かってきた時、真っ先に『掛けてくるのが遅い』なんて言ったんですよね。あなたも、自分の気持ちと葛藤してたんじゃないんですか? 彼女のことも好き。先生のことも好き。でも、これでやっと動ける。先生のためだと思ったら動けるんでしょう。……でも」
葵は、スッと息を吸った。
「失礼を承知で言わせていただきます。……トーマさん。あなた、罪悪感から一刻も早く逃れたかったんじゃないですか」
彼はやはり何も言わない。
けれど言わせてもらう。それはもう、ハッキリと。
「トーマさん。それは、ただの自己満足だ」
「――――」
「自分で勝手に悩んで、誰かの手を取らないとあなたは動けないんですか? 今回のことで、苦しんだのはあなただけじゃない。それはちゃんとわかっているはずです。……なので、これ以上このことにとやかく言うつもりはもうありません」
なのでここからは、ちょっと話題を変えさせていただきます。えー、ごほん。
「いや~聞いてくださいよ! 男たちがあんなにヘタレだったとは!」



