すべてはあの花のために①


「それで? 葵ちゃんは、俺と何の話がしたいのかな」

「どうしても気になったことがあったので、あなたに直接お伺いしようと思ったんです」

「それを拒否することは?」

「もちろん構いません。ではわたしは、あなたに何も聞かないことにします」

「……というと?」

「あくまで一方的にお話しさせていただこうと思うので、あなたにはただ、聞いてもらえればと」

「……ただ聞くだけ、ね」

「それでもよろしければ、トーマさん。わたしの話を聞いていただけますか?」

「……はあ。勝手にすれば」

「ありがとうございます。……では、トーマさん」


 そして葵は、彼の止まっている時間も動かす――――。


「あなた、キサちゃんのこと好きでしょう」


 何故そう思ったのか。
 それは、“あなたという人”が、素直に『婚約者になる』と言ったから。


「アカリさんからは、『女王様には逆らえなかった』と聞きました。けれどお話を聞く限りあなたには、今回の一件を打破できる術はいくらでもあったはず」


 桐生本家が今まで隠してきたという都合の悪いことを、あなたはどうして知っているんでしょう。


「まあそんなことは知ったこっちゃないですが、それでもあなたは知っている」


 ならばその弱みに付け込んで、婚約を破棄することはいつでもできたはずだ。少なくともそう考えるでしょう。それに相手は大事な幼馴染み。それで助けられるなら尚更そうするはずだ。なのに、あなたはそうしなかった。

 動けなかった?
 いいえ、動かなかった。

 少なくとも、彼女に気があったから。


「あなた、あわよくば(、、、、、)みたいなことを考えていたのではないですか」


 沈黙を破ろうとしない彼に、少し言い過ぎたかもと後悔した。でも、まだここで終わるわけにはいかない。


「あなたは、彼女のことも好きだけれど、先生のことも大好きだから、自分の気持ちには蓋をしていた。だからあなたは、彼から電話が掛かってきた時、真っ先に『掛けてくるのが遅い』なんて言ったんですよね。あなたも、自分の気持ちと葛藤してたんじゃないんですか? 彼女のことも好き。先生のことも好き。でも、これでやっと動ける。先生のためだと思ったら動けるんでしょう。……でも」


 葵は、スッと息を吸った。


「失礼を承知で言わせていただきます。……トーマさん。あなた、罪悪感から一刻も早く逃れたかったんじゃないですか」


 彼はやはり何も言わない。
 けれど言わせてもらう。それはもう、ハッキリと。


「トーマさん。それは、ただの自己満足だ」

「――――」

「自分で勝手に悩んで、誰かの手を取らないとあなたは動けないんですか? 今回のことで、苦しんだのはあなただけじゃない。それはちゃんとわかっているはずです。……なので、これ以上このことにとやかく言うつもりはもうありません」


 なのでここからは、ちょっと話題を変えさせていただきます。えー、ごほん。


「いや~聞いてくださいよ! 男たちがあんなにヘタレだったとは!」