「変態じゃねーよ」
「…………」
あ。しまった。また素が出て……てか自分でバラしてるし。
彼にだけはバレたくなかったが、致し方あるまい。
それに、こんなことを言うんだ。もう、ある程度は聞いているんだろう。
「(にしてもみんな面白がってわたしのことバラしすぎじゃない? 一応隠してる身なんですけど!)」
((大丈夫。今回はこの人で終わりだろうから))
「(ああそう? それならよかっ……今回は?)」
((…………))
「(あ、ちょっと! 無視しないでよお願いだからっ!)」
脳内から返ってきた悲しいほどの沈黙に、葵は泣きながら机に突っ伏してしまった。
「「「!?!?!?」」」
それに対し目の前のトーマは微動だにしなかったが、急に泣き出した葵に、鋭い目を向けていたはずの女性客たちが動揺し始めた。
「あ、あの人いきなりどうしたの……?」
「きっとあの彼に振られたのよ」
「どうしよう。………警察呼ぶ?」
お願いします。本当に警察だけは。
じゃないと、奪還できずに物語終了しますから。
そんな声が聞こえた葵は、心の中で彼女たちにそう応えたあとガバッと起きあがって、改めてトーマに視線を合わす。
「すみません取り乱しました。改めましてわたしは、キサちゃんの同級生でクラスメイト、そして大切なお友達で生徒会の下僕です」
「――ふっ」
「??」
言い終わるが早いか、いきなり笑われてしまった。
「(……特に変な自己紹介はしてないと思うんだけど)」
((いや、十分おかしいから))
「ごめんごめん。……俺は桐生杜真です。よろしくね、葵ちゃん?」
「! はいっ。よろしくお願いしますっ」
ここ最近、自分のことを名前で呼んでくれる人が増えたことが本当に嬉しかった葵は、いつも付けていた仮面から思わず満面の笑顔を覗かせた。
一瞬目を瞠ったトーマはゆるりと視線を外し、静かにコーヒーに口をつける。
「……それで? 特にすることはないと思ってたから、俺今日はゆっくりしようと思ってたんだけど」
それは、いちいち刺のある言い方だった。
「一応トーマさんにもこちらの動きをもう一度お話ししておきたかったのと」
「と?」
「少し、トーマさんとお話がしたいなと思いまして」
「ふーん」
何を考えているのかわからない。それくらい、彼には一切の隙がなかった。
一旦葵はこちらの動きを話した後、当日の彼がどう動くのかを聞くことに。
「……本当に指差して笑う気満々なんですね」
「そう言ったでしょ」
話を聞く限り、本当に彼は何もする気がないのか、実際の式の流れのままだった。
もちろん奪還した後に彼は動いてくれるのだろうが、それについては話してくれないのだろう。
「俺が話せるのはここまで。君に、これ以上話す必要はないからね」
「そうでしょうね。あなたにとってわたしは、部外者も同然でしょうから」
「そうだね」
ハッキリと告げられた肯定。こちら側への侵入拒否。
ここまで潔く一線を引かれると、逆に気持ちがいいくらいだ。
「(まあ、それもぶっ壊す気満々ですけどね)」
さあ。あなたが必死に隠してること。――――暴いてやりましょうか。



