すべてはあの花のために①


「それはそうと。今トーマさんとキサちゃんはどちらに?」

「あの子たちはもう桐生の本家にいるんだよ」

「まだ、正式に婚約したわけではないですよね?」

「本家に親戚を集めて、挨拶とか打ち合わせをしているんだと思うよ」


 そして彼らは正式に婚約次第、そのまま本家で暮らす手筈になっているそうだ。


「では、わたしたちがこちらに来ていることは、トーマさんしか知らないということですね」

「その通り」


 それならここにいる間、本家はもちろんキサにもバレる心配はなさそうだ。


「それともう一つ。一応知っておきたいと思ってですね」

「何かな」

「ナツメさんたちは、どのようにして本家を抑え込むのかなと」

「……あ、ああ。うん。そ、そのこと……ね」

「うーんと、えーっと。……ね?」


 何か可笑しなことでも言ったのか、彼らの歯切れが急に悪くなって……。


「し、知らない方が身のためだと、思うんだけどな……」

「うん。……多分命に関わると思うわ」


 目を泳がせまくっているトーマの父母に加わり、キサ父母もそんなことを言う。チカゼとキクは、何となくわかってしまったのか、顔がすっかり青ざめていた。

 首を傾げていると、キサ母がそっと耳打ちした。


「あのね? あたしたちは、あなたが本当に味方でよかったと思ってるの」

「……ありがとうございます?」

「桐生にもね、絶対に敵に回しちゃいけない奴がいるのよ」

「と、いうと?」

「今後のためにも言っておくけれど、……トーマの敵にだけは、絶対にならない方があなたの身のためよ」

「……ま、まさかとは思いますが」

「実はそのまさかでねえ……」


 両家父母曰く。どこで調べたのか、本家にとって都合の悪いことを全て公表する気なのだという。


「そ、それは……」


 末恐ろしいですね。
 実のご両親でさえ、震え上がらせるだなんて。


「(そこまで言われたら、逆に早く会いたくなるなあ)」


 怖いもの見たさとは、こういうことを言うのだろう。
 でも、彼にだけは弱みを握られないようにしよう。うん。絶対に。