すべてはあの花のために①


 それからどれくらい経ったのか。理事長のマリ○カート熱が冷めたところで、ようやく話が進むことになった。

 理事長直々に、本題の話が振られる。


「いやーすまなかったね! 遅くなってしまったが新生徒会についての話でもしようかな」

「はい、是非お願いします(長かったーここまで来るの……)」


 ここまでの長い道のりがいろいろ驚きの連続だった葵は、一人心の中で大きな大きなため息をついた。


「(にしても、理事長って見た目だと“如何にも何人もの女の人を落としてきました”って感じなのに、意外と子どもっぽいところがあるんだな)」


 意外な一面を見てこっそり笑っていると、「あ、ちなみに午前中は自習にしてるから、寛いでくれて大丈夫だよ~」と、その彼から所謂『サボってOK』のお言葉を頂戴した。
 言うが早いか。葵以外のメンバーと朝倉先生は、理事長室を知り尽くしているのか、自分たちの飲み物をさっさと準備し始めた。


「お~い道明寺、お前さん何がいい?」

「あ。……じゃあ、コーヒーをブラックで」

「はいよー」


 朝倉先生が、一緒に準備をしてくださるようだ。
 勝手がわからないまま手伝ったら迷惑をかけるかもしれないし、時間がかかってしまうだろうからと、葵はそのままお言葉に甘えておくことにした。



「それでは改めて。今年度の新生徒会に選ばれた九人の皆さん、よく来てくれたね。私は理事長の海棠実。この桜ヶ丘の小・中・高全体をまとめているよ」


 そういうことなら、自分以外のメンバーがお互いのことをよく知ってるような雰囲気に納得がいく。葵は、戴いたコーヒーに一口口を付けながら、内心で大きく頷いていた。


「(にしても、目に余るほど自由すぎるけど)」


 理事長の話が始まったのにもかかわらず、ダラダラとして締まりのないメンバーだった。


「今回、君たちは生徒会のメンバーとして多くの投票数を獲得して選ばれたわけだが、問題や異論は無いかな」

「(あ! ついに出た! 待ってましたよーこの話題っ!)」


 でも、他の人たちがいる前で断るのは、少し気が引ける。
 そう思っていた矢先だった。


「問題無い」

「うん、大丈夫だよ~」

「アタシも大丈夫よ」

「おう! てかこのメンバー中学のまんまじゃね?」

「そうだね。おれ、いまから楽しみだよお」

「(こくこく)」

「またチカがビービー泣かされないように見張っとくよ」

「そういうあんたが一番泣かすんでしょうが」


 皇くんが淡々と答えたのを皮切りに、みんなそれぞれ同意の意思を伝え始めてしまう。


「(でも、わたしは……)」


 選んでもらって光栄だ。それは本当に心から思ってる。
 ……けれど、無理なんだ。自分には。


 申し訳なさが胸一杯に占める中、葵はゆっくりと、そしてハッキリと言葉にした。


「申し訳ありません、理事長。わたしは辞退をさせていただきたくこちらへ参りました」