当日の動きは粗方決まり、あとはこちらの動きや時間、場所を確認して、桐生本家のある徳島へ行ってから、向こうで念入りに最終確認しようということに。
何でも婚姻話が決まってからというもの、桐生家は反抗の意思を表すように本家とは違う場所に住んでいるようで、奪還の計画も本家にはバレないとのこと。
「こ、これっ、小さかった頃のみんなの写真ですかっ!? かわいいー!!」
そして現在葵は、小さい頃の写真をキサ母に見せてもらっていた。食い付いて見入る葵の目が血走っているのと、じゅるじゅるとうるさい涎の音に、キサ母はそれなりにビビっていた。
「……あ。これ……」
「どうかした?」
「あ。……いえ。本当に可愛いなって思って」
本当に楽しそうに、心底嬉しそうにアルバムを見ながら笑う葵を見て、キサ母も小さく笑い返してくれる。
「アカリさん。わたしに何か言いたいことがあって、ここへ連れてきてくださったんですよね? 写真が見られて本当に嬉しいですし、正直何枚か戴きたいくらいですが!」
一度目を瞠ったあと、彼女は少し遠慮がちに話し始めた。
「本家はいるだけで窮屈で、堅苦しいし思うところもあったし、それにあの人を愛してたから、こうして小さい家だけど楽しく暮らしていたの」
ああ、この人は気付いていたのだろう。
この家に来た時から。本当、流石だ。
「桜庭って聞いたら無理もないわ。思ったより普通の家で驚いたでしょう」
「お見通しですね!」
「でも」と、葵はにこっと笑って続けた。
「全く普通ではありませんでした。こんなにも愛情たっぷりのお家は、きっとどこにもありません!」
「……ありがとう」
彼女は、一度目を伏せた。
「……本当に。本当にありがとう。菊ちゃんをここまで連れて来てくれて」
「アカリ、さん?」
そして彼女が話してくれたのは、彼の暗い過去の話。
「…………」
「あの子はあの子で苦しんでた。でも、ずっと一人じゃなかったから、きっと寂しくはなかったと思うの」
「だからね」とキサ母が続ける。
「長い長い間、動こうとしなかったあの子をここへ連れて来られたことは、本当にすごいことなの。だから、みんなの背中を押してあげてくれて、勇気をあげてくれて、本気で怒ってくれて。……本当に、ありがとう」
「……っ。どういたしましてです!」
二人は笑い合った。
でもそれも、すぐに切り替わる。
「さあ。【紀紗ちゃん奪還作戦】絶対成功させるわよ!」
「もっちのろんですっ!」
――――さあ。女王様奪還計画、開始だ。



