「すき」
息ができなかった。好いていてくれてるだろうとは、思ってたけど。
「(……待て待て待て。頼むから)」
けれど、止めることなんてできなかった。うるさい心臓は、バクバクと速く動くばかりで。
「き、……菊ちゃんは、あたしのこと、好き……?」
どんな顔をしているのか。顔面を胸に押し付けてくるこいつは多分、尋常じゃないほどバカみたいに動いてる心臓に気付いてるんだろうけど。
「(……あーくそ)」
でも、この時はまだ、この気持ちは言えなかった。
好きで好きで。言われたことが嬉しくて……本当、しょうがないっていうのにな。
「……オレはな。お前のヒーローだって、思ってるよ」
「? ひーろー?」
「ああ。そうだ」
言ってから、自分で何言ってんだって、正直思った。でも。
「……お前を外の世界に出してやったあの日から、オレはお前のヒーローなんだ」
「だからな?」そう言って、口を挟まれる前に続ける。
「これは、オレがお前の。お前だけのヒーローだって印」
クサい台詞と一緒に、ポケットに入れた小さな箱を開ける。
そこに収められていた桜色のリングを、あいつの左手の中指につけてやった。
「……こ、れ……」
「誕生日おめでとう。それをつけてる限り、オレはお前だけのヒーローだよ」
お前の気持ちに、今は答えてやれない。
でも、言えなかった分。そこにつけた意味を、いつかでいい。わかって欲しい。
【左手の中指】
そこにつけるのは、『好きです』って意味だから。
「……そっか。うんっ。菊ちゃんは、あたしだけのヒーローだっ」
「(ばーか)」
そう言って顔を上げたあいつの顔は、なんだか苦しそうで。
「(……バカなのはオレの方か)」
ちゃんと答えてやれなかったことを、本当は謝りたくてしょうがない。
子どもだからとか、好きじゃないからとか、そんなんじゃねーんだわ。
「(……ごめんな)」
本気過ぎたから。
オレが子どもだったから。
だからまだ、答えられねーだけなんだ。
「……ってろ」
「? 何か言った菊ちゃん?」
「んや。何も」
でも、お前は誰にも渡さないから。
オレが大人になる、もう少し。
もう少しだけ、待っててくれ。



