「菊ちゃーんっ!」
「ぐふっ!」
ただ、だんだん可愛くなっていくあいつに、少し困ってはいた。
そして今日は、あいつの誕生日。朝から玄関のドアを突き破り(※そうな勢いで開け)押し倒してきたオレに、早々とあいつは命令した。
「おい菊ちゃん。あたしと遊べ」
「は? 嫌だよ。何だってこの天気がいい休みの日に」
「今日は絶対遊ぶんだからっ。ほら早くっ」
「だから嫌だって。オレは今から、洗濯して、掃除して、買い物して、明日の昼飯の弁当のおかずだけでも準備しときたいんですー」
「主婦か!」
「そーそー。お前知らねーのかよ。主婦の休日は忙しいんだぞー」
「いやだ! 連れてって!」
「ダーメー」
「いやだいやだいやだ!」
「ダメったらだ――」
「連れて行け」
「……ハイ」
最初から断るつもりないんだから、素直にいいよって言えばよかったんだろうけどな。ま、言えなかったんだ。この日ばかりは。
「(壊す気かよこいつ……)」
ポケットに入っている小さな箱を、大暴れして今にも壊れてしまいそうな心臓の代わりに、ぎゅっと握る。
それから女王様の我儘に付き合い、いろんな場所へと連れて行ってやった。
「(こいつ、今日はどうしたんだ)」
今日が自分の誕生日だからか。滅多に我儘を言わないのに、今日はたくさん言ってくる。だから、オレもついつい甘やかしてんだけど。
そんなこんなで、日が傾き始めた頃。あいつが、海に行きたいと言い出した。
「流石にお前、この時期入るのは無理だろ」
「違う! 見たいだけ!」
まあ、見るだけなら……そして、一番近い海へと連れて行ってやった。
でも、着いたら着いたで猛スピードで海の方へ走っていくもんだから。
「(やっぱりこいつ入る気なんじゃねーか!)」
と、慌てて馬鹿を追いかけた。
「おい! いきなりどうしたんだよ!」
声を掛けても止まる気配がないあいつを、必死で追いかけ腕を掴む。
「おい。なんでそんなに走っ――!」
走っているんだと。最後まで言えなかったのは、振り向いたキサがオレに抱き付いてきたから。



