すべてはあの花のために①


「菊ちゃーんっ!」

「ぐふっ!」


 ただ、だんだん可愛くなっていくあいつに、少し困ってはいた。

 そして今日は、あいつの誕生日。朝から玄関のドアを突き破り(※そうな勢いで開け)押し倒してきたオレに、早々とあいつは命令した。


「おい菊ちゃん。あたしと遊べ」

「は? 嫌だよ。何だってこの天気がいい休みの日に」

「今日は絶対遊ぶんだからっ。ほら早くっ」

「だから嫌だって。オレは今から、洗濯して、掃除して、買い物して、明日の昼飯の弁当のおかずだけでも準備しときたいんですー」

「主婦か!」

「そーそー。お前知らねーのかよ。主婦の休日は忙しいんだぞー」

「いやだ! 連れてって!」

「ダーメー」

「いやだいやだいやだ!」

「ダメったらだ――」

「連れて行け」

「……ハイ」


 最初から断るつもりないんだから、素直にいいよって言えばよかったんだろうけどな。ま、言えなかったんだ。この日ばかりは。


「(壊す気かよこいつ……)」


 ポケットに入っている小さな箱を、大暴れして今にも壊れてしまいそうな心臓の代わりに、ぎゅっと握る。

 それから女王様の我儘に付き合い、いろんな場所へと連れて行ってやった。


「(こいつ、今日はどうしたんだ)」


 今日が自分の誕生日だからか。滅多に我儘を言わないのに、今日はたくさん言ってくる。だから、オレもついつい甘やかしてんだけど。

 そんなこんなで、日が傾き始めた頃。あいつが、海に行きたいと言い出した。


「流石にお前、この時期入るのは無理だろ」

「違う! 見たいだけ!」


 まあ、見るだけなら……そして、一番近い海へと連れて行ってやった。
 でも、着いたら着いたで猛スピードで海の方へ走っていくもんだから。


「(やっぱりこいつ入る気なんじゃねーか!)」


 と、慌てて馬鹿を追いかけた。


「おい! いきなりどうしたんだよ!」


 声を掛けても止まる気配がないあいつを、必死で追いかけ腕を掴む。


「おい。なんでそんなに走っ――!」


 走っているんだと。最後まで言えなかったのは、振り向いたキサがオレに抱き付いてきたから。