コンコン。コンコン。
ノックをしたものの返事はない。けれど、中からは楽しそうな声が聞こえた。
((……賑やかすぎて聞こえてないんじゃない?))
痺れを切らしてか。内側から聞こえたそんな心の声に首を傾げながらも、遅くなってはダメだと思い、葵は意を決して扉を開けることに。
「理事長、失礼致します」
編入の時以来の理事長室に少し緊張したけれど、その無駄に大きくて派手な装飾が施された扉のノブに手をかけ、静かに開いていく。
ゆっくり扉を開いて見えたもの。それは――――
「いやあー! ここで雷やめてえー!」
「(ぬああ!?)」
な、なんだ!? 雷?!
というか悲鳴がっ。悲鳴が部屋中に響き渡ってるんですけど!
「うわ! ここで雷とかマジ卑怯! つか誰だよ潰しやがったのは!」
「~♪」
「おいオウリ!! お前、後で覚えとけ――」
「はーい、赤ガメ発射ー」
そこで目にしたのは、残りの新生徒会メンバーである、柊くん、氷川くん、九条くん。それからそれを傍観している、葵のクラス担任、朝倉 菊先生。そして極めつけが……。
「うぎゃああああーッ!!」
全力でマリ○カートを楽しむ、海棠財閥の次期代表。海棠 実 理事長の姿だっ――
――バッタンッ!
だったように見えたのは、きっと気のせいだと思って、思いっきり扉を閉めた。
「(いや、うん。気のせいだ。そうに決まってる)」
だって編入してきた時は、理事長オールバックだったし。ダンディーだったし。もうちょっとくらいは、威厳があった気がするもん。
葵は開いた大きな重い扉を、目にも留まらぬ素早い動きで思いきり、そりゃもう、思いっきり閉めた。
「(あー成る程! “重い”と“思い”をかけたのね!)」
((…………))
「(あ、ちょっと! 無視しないでよ!)」
扉を閉めた状態のままの葵が、どっかの誰かさんと脳内で会話をしたり、一人の世界に行ったりしますが……こんなことは今後も日常茶飯事に起きますので、そこのところどうぞよろしくお願いします。
「道明寺さん、どうかした?」
「(ヤバッ!)あ、いえ。……何だか今、とても見てはいけないものを見てしまったような気分でして」
桜庭さんに不審に思われてしまったかもしれないと思い、少し慌てながら扉から一歩遠ざかる。
「(明らかに変だったよね。気をつけないと)」
((もう覚悟決めちゃえばいいのに。変なのはいつものことでしょ))
「(その覚悟は今はいらないぃぃ……)」
葵がそんな脳内会話をしているとは思ってもいないだろう東條くんは、「どうしたんだろうねぇ」と少し近い距離に並んだ。
「理事長? 入るよ~」
パーソナルスペースに自然と入られた葵が、驚いているとは全く知らぬ様子で。ゆるいというか、のんびりというか。“ぬた~”っとした感じで、東條くんが扉を開けてしまった。



