それからの行動は早かった。そのことを奥さんに相談したら、「今すぐ奪いに行こう! ほらモタモタするな!」なんて言い出すから、本当に心強くて。
でも、今度は別の問題が浮上する。誰の子かもわからないような奴が敷居を跨ぐことを、桜庭が許さなかったのだ。
けれど桜庭の反対をなんとか押し切って、我が家へ迎え入れた。その子の名前は、紀紗。そう名付けた。
そしてその一年後。しばらくはいいと言っていた柊家にも、男の子が産まれる。その子の名前が、千風。
それから子どもたちは何事もなく、無事に元気にどんどん成長していった。
自分たちの家に子どもがやってきてくれて嬉しくて、それはそれは毎日のように忙しくやっていた。他の家の子どもたちも、それはそれは可愛がってやってやりながら。
でも、あの子が自分たちの子どもでないことは、まだ言えてなかった。もう少し、彼女が大きくなってからにしようと思っていた。
ところが今から九年前、柊の子が小学校に上がる年に、事は起こってしまった。
どうやら、自分たちをよく思っていなかった桜庭の親戚たちが、紀紗に言ってしまったんだ。桜庭の子ではないことを。
そのあと、しばらく紀紗は学校に行けなかった。自分の部屋の中に閉じ篭ってしまった。きっと裏切られたような気持ちだったんだろう。
流石にどうにかしないとと思ったある日、朝倉の子がうちにやってきた。親に似てだらだらとして、そして親に似てとてもやさしい子に成長した彼は、年が離れてる分しっかりみんなの子守をしてくれていたから、もしかしたら彼の言葉なら届くかも知れないと思った。
すると案の定、すぐにあの子が部屋から出てきた。部屋の前で一言二言話しただけで。教えてはくれなかったが、彼にすごく感謝した。
「あたしの……じゃ、ない……?」
そのあと、何故か泣きながら抱き付いてきたあの子に、どうやって俺たちの子どもになったのか。ゆっくり説明してあげることにした。なるべくわかりやすく言ってあげたつもりだけれど、きっとほとんどわからなかったんだろう。ただあの子は俺たちに抱き付いて、ひたすら泣いていた。
その後、彼らはまた順調に大きくなっていった。
いつしか、あの子の菊を見る目が変わって。菊の方も、あの子のことをよく思ってくれていて。毎日が、すごく平和だった。微笑ましくて、ああ幸せだなと、思える毎日だった。
でもそんな平和な日常もある日、あっという間に引き裂かれた。



