すべてはあの花のために①


「……その。ここまで好き勝手言って、間違ってたらすみません。話を整理してみると、やっぱりそうなんじゃないかと思って」

「大丈夫だから、続けて?」

「キサちゃんはもしかして、婚約者さんの方の血筋なのではないでしょうか。だから向こうは、血筋を守るために彼女と婚約者さんを繋ぎ止めたかったのではと」

「…………」

「最終的に、わたしが至った結論はこうです」


 何らかの経緯であなた方は彼女の家族になったが、実はその子が婚約者と血が繋がっていた。
 桜庭の親戚は、血の繋がりのない彼女をよく思っておらず、反対に向こう側は、血筋を何よりも重んじていた。

 そして、利害を一致させた親戚同士たちが、二人をくっつけてしまおうと計画を企てた。


「チカくんが以前言っていたんです。『家の人からのお願いを、あいつは断れなかったんだと、オレらはそう思ってる』と。キサちゃんも婚約者さんも、どうして今回の婚姻を拒否しなかったのか、本当のところはわかりません。それは彼らと会って話してみないといけないことですから」


 けれど、その理由に見当はついている。恐らくこの場の全員が。


「(きっと、大好きでしょうがない人たちのため、なんだろうなあ)」


 以上ですと話は切り上げ、今まで口をつけていなかったコーヒーを、ゆっくり流し込む。思った以上に喉が乾いていたのか、苦いコーヒーは気に飲み干した。


「……理事長の言っていたことがよくわかったよ」


 するとキサ父は、ソファーに背を預け天井を仰いだ。


「そこまで推測するなんてね。これはもう白旗ものなんじゃないかな。ねえ母さん?」

「ええそうね。本当、“彼女だけは敵に回したくない”わ」

「えっと?」

「彼から昨日、謝罪の電話が来てね」

「……謝罪?」

「『道明寺葵さんに、俺らの家の事情をちょっとだけ話しちゃいました。ごめんなさい』……ってね? 子どもたちが仲が良いんだ。その親である俺らとも勿論仲良しなんだよ」

「ちょ、ちょっと待ってください」

「その電話でね、理事長が言ってたんだよ。『彼女だけは敵にまわさない方がいい』って。ちなみに君のことは、理事長が勝手に話した代わりに、少しだけ教えてもらっていたよ。道明寺葵さん? あ、変態さんかな?」

「ちがいます!」


 葵は思いっ切りツッコんだ。
 やっぱり彼女は、この人たちの子どもだ、絶対に。


「(てことは、わざわざ名字を隠したのも、意味なかったってこと……?)」


 葵は盛大に項垂れた。


「試すような真似をしてごめんね」

「ただここまでして踏み込んできてくれる子がどんな子か、知りたかっただけなのよ」


 けれど葵は、しばらく立ち直れそうになかった。