すべてはあの花のために①


 シントの受け売りを言い終わると、キクは手に持っていた携帯を、ぽろっと落としてしまった。


「(落とせって、誰も言ってないし!)」

((いや、ただ驚いてるだけだって))

「(……ちゃんと、届いたかな)」


 そう思っていたら、彼はすぐに落ちた携帯を拾い「携帯さんに失礼ねえ」と、どこかに連絡をし始めた。


「………あ。もしもしアカリさん? あのさ、ちょっと明日時間もらえねえ? ……え。あたしはもう人妻? 意味わかんねーよ。あんたには手は出さねー……って、え? あんたには(、、)ってどういうことかって? ……ああ。そのことで明日、話がしたいんだ。……掛けてくるのが遅いって? ああ。遅くなっちまったけどな。オレは、やっぱり最後まであいつの……キサだけのヒーローにはなりたいんだわ」


 ……へ? 誰ですかあなた。


「おいおい、わかってるんなら止めてくれや。……それはオレがやらないと……って、はあ? しかもあいつん家も納得してないって。だからつけいる隙あるわよって。でも、親戚どうすんだよ。……は? そんなんいいからって。いやいや、それでオレ達がどんだけ悩んでると。……もっと早く話しとけばよかったな。おう、明日また怒られに行ってやるよ」


 さっきのヘタレっぷりはどこへ?
 しかし、彼は続いてまた別のところへと掛け直す。


「……あ、もしもし? オレオレ。朝倉菊でーす。……は? 掛けてくるのが遅いって……お前、キサの母ちゃんと同じこと言ってるぞ。本当のことだって? わかってるよ。すまんかったね。ちょっとヘタレってたんだわ。……は? 元からヘタレ? バカ言えや。どっからどう見たってお前に匹敵するかそれ以上のイケメンだろうが。……ハイ。ソウデス。オレが全面的に悪いデス」


 相手がよほど怖いのか、キクは何度も頭を下げて謝罪していた。


「ところでさ、お前ん家大丈夫なんか? いや、だってお前の親戚超うるさいだろ? 大変だけど、まあなんとかなる? どこの家も似たり寄ったりだな。んで? 親戚はどうすんだよ。お前の父ちゃん母ちゃんは? ……ああ、やっぱりお前んとこも反対なわけね。なんだよ今回の騒ぎ。親戚同士だけで盛り上がって、当の本人たちとその家族は全然乗り気じゃないとか……はあ。まあ、時間はまた連絡するけど……なあ。キサ、元気してるか? ……いや。あいつに会うのは奪還の時にするよ。そこで会って、ちゃんと話して、好きだって言ってやるから。え? いきなりどうしたのか? 人の受け売りなんだわ~これが。こんなこと言うの恥ずかしいよなー。しかも真顔で。……あ、やっぱりお前もそう思う? でもオレの恩人なんだわ。そっち行った時に会うと思うぞ。……え? ああ、やめとけやめとけ。変態だから。やっぱりお前もそう思う? まあ取り敢えずまた連絡するよ。それまでキサを頼むな」


 だいぶ失礼なことを言われたし!
 そんな簡単に変態って言わないでくれませんか?! 国内にいられなくなるじゃないですか!