そうして彼は、座り込んでいる葵の前にしゃがみ込み、ぐっと肩を抱き寄せる。
「(えっ)」
思わず彼の胸に倒れ込んでしまった葵は、慌てて起き上がろうとするけれど。
「っ? ち、ちかくん……?」
こめかみの、少し後ろの方。お披露目式の時に似た、あのあたたかい感触が、束の間の間静かにそこへと触れていた。
ゆっくりと離れていった彼は、お得意の笑顔でこう言う。
「……オレはまだ諦めねえ。誓いは、必ず成し遂げる」
そう言って彼は立ち上がり教室を出て行った。
「(も、もしかしてわたし、とんでもない誓いをさせてしまったのではなかろうか)」
真っ赤な顔で耳元を押さえる葵が、その本当の意味に気付くのは……もう少し先の話。
……そういえば。彼って、結構ウブじゃありませんでしたっけ?
「あ。チカくんみっけ!」
「――?!」
教室を出て行った彼はというと、蛇口の水を頭から被っていました。
「……何やってるの?」
「いっ、今から喧嘩売りに行くからな。これはアレだ。所謂精神統一だ」
「成る程! 滝に打たれる感じだね! わたしもやろうかな!」
「ばっ! 5月と言えど、日が沈んだらまだ寒いんだから。風邪引いたらどうすんだ。お前はすんじゃねえ」
「チカくんはいいの?」
「オレは……あっちいから、もうちょっと待て」
「??」
何せ、まださっきの葵よりも真っ赤だからさ。



