「……それで? おまえは、おれに。ききたい、こと。あるんじゃねーの」
少し落ち着いたのか。質問ができるくらいの余裕ができたらしい彼は、ここまで来た葵に、言葉を投げかける。
「そうだねチカくん。君に、少し聞きたいことがある」
葵は、その言葉を厳しい声で返す。
「先に言っておく。隠し事はなしだ」
彼は返事の代わりに苦しそうな笑顔で頷いた。
「(……お願いだから、そんな顔しないでよ)」
葵は、ゆっくり息を吐きながら目を閉じた。
「チカくん。君は、彼女の家の事情を全て知っている。これは、間違いないね?」
チカゼは小さく頷いた。
「じゃあ君は、あの時追いかけた彼女からどこまで聞いた? 言えるところまででいいから教えてくれ」
「……あいつが、学校を辞めること。それから、4月いっぱいまでってこと」
「そのあと、彼女は何か言ってなかったか」
「……これは、あたしが決めたことだ、って。だから変えるつもりも、みんなに言うつもりもない、って」
「チカくんはそれに納得してしまった。それは彼女の家庭の事情が関係してるから。だから君も誰にも言えなかった。何もできなかった。そうだね」
チカゼは、葵の言葉にぐっと膝を抱えた。
「……。……オレらは、あいつが何よりも両親を大事にしてることを知ってる。あいつにとってはもちろん、オレらにとってもすんげー大切な、かけがえのないものなんだ。だから、家の人からのお願いを、あいつは断れなかったんだと。オレらはそう思ってる」
「それはあくまで君の予想だ。本人から直接、そこまでは聞いていないんじゃないか? それは恐らく君と同じ、事情を知っている彼もだ」
「……。オレらはさ、小さい頃から、いつも一緒にいたんだ。何も知らなかった頃は、何も気にしないであいつらとよく遊んでた。でも、オレが小学校に上がった年。あいつの事情を知った。その時、そのことをあいつから直接聞いたのはオレらだけだ」
だから、彼らも諦めたのだと、そう言いたいのだろう。
――でもダメだ。このままじゃ。



