束の間。冷ややかな風が、沈黙を攫っていった。
「……かけがえのないもの、なんじゃないですか」
「そうだね」
「……どうして、そんなこと聞くんですか」
「う~んそうだね。ぼくから君への贈り物かな~」
「全く意味がわからないんですけど」
「君はその、かけがえのないものになるために、必要なものって何があると思う?」
「……。愛だけで、十分なんじゃないですか」
「うん。ぼくもそう思うよ。だけどね?」
――愛とかお金とかよりも、もっと違うものを大事にしている人たちも、世の中にはいるよね~って話。
「……愛とか、お金よりも……」
「ま、役に立てたならよかったよ。それで、もしかしてと思ったんだけど、今度の新入生歓迎会って」
「ええ。理事長が考えておられる通りですよ」
「そっか」と、彼はただ、やさしく微笑んでいた。
「(……なに?)」
彼は今、何故そんな話をした。それに……贈り物って?
「(わたしは、一体何を見逃して――……)あ。すみません理事長。もう一つだけいいですか?」
「いいよ。多分聞くと思ってたから」
「ありがとうございます。それでは遠慮なく……」
――今、職務放棄のヘタレ野郎はどちらにおられますかねえ?
「……そうだね」と、考える素振りをしている彼の顔は、おかしそうに笑っていた。
「きっと千風くんなら、居場所を知ってるんじゃないかな? 君は、彼らに会って、どうするつもりだい?」
その質問に葵は、ただにやりと笑った。
「それはもちろんっ!」
――ぶっ飛ばしてやるんですよっ!
そう宣言した葵は、勢いよく理事長室を飛び出し、彼を捜しに行ったのだった。



