すべてはあの花のために①


 束の間。冷ややかな風が、沈黙を攫っていった。


「……かけがえのないもの、なんじゃないですか」

「そうだね」

「……どうして、そんなこと聞くんですか」

「う~んそうだね。ぼくから君への贈り物かな~」

「全く意味がわからないんですけど」

「君はその、かけがえのないものになるために、必要なものって何があると思う?」

「……。愛だけで、十分なんじゃないですか」

「うん。ぼくもそう思うよ。だけどね?」


 ――愛とかお金とかよりも、もっと違うものを大事にしている人たちも、世の中にはいるよね~って話。


「……愛とか、お金よりも……」

「ま、役に立てたならよかったよ。それで、もしかしてと思ったんだけど、今度の新入生歓迎会って」

「ええ。理事長が考えておられる通りですよ」


「そっか」と、彼はただ、やさしく微笑んでいた。


「(……なに?)」


 彼は今、何故そんな話をした。それに……贈り物って?


「(わたしは、一体何を見逃して――……)あ。すみません理事長。もう一つだけいいですか?」

「いいよ。多分聞くと思ってたから」

「ありがとうございます。それでは遠慮なく……」


 ――今、職務放棄のヘタレ野郎はどちらにおられますかねえ?

「……そうだね」と、考える素振りをしている彼の顔は、おかしそうに笑っていた。


「きっと千風くんなら、居場所を知ってるんじゃないかな? 君は、彼らに会って、どうするつもりだい?」


 その質問に葵は、ただにやりと笑った。


「それはもちろんっ!」


 ――ぶっ飛ばしてやるんですよっ!

 そう宣言した葵は、勢いよく理事長室を飛び出し、彼を捜しに行ったのだった。