すべてはあの花のために①


「〜♪」

「(おっとこれこそ珍しい!)はい! なんですか? オウリくんっ」


 ぴょんぴょんと飛びながら、手を上げている彼は、本当にウサギさんになったようだった。そして、葵の態度の違いが半端ない。


「(にしても、話してくれないからどう聞けばいいのやら……)」


 すると彼は、メンバーそれぞれの前に行き、頷きながらメモを取るような動きをする。


「(あ。もしかして……)聞き取り調査みたいなことかな?」

「(コクコク!)」


 成る程成る程。その手もあるね。

 …………それにしても。


「(ほんっとうにあなたは可愛いですねっ! お持ち帰りしちゃいたいんですけどっ、ダメですかね!?)」

((ダメに決まってるでしょ。ヨダレ垂れてるから。みんな引いてるから。早くしまいなさい))

「(おっと、それはマズい)」


 それにしても、チカゼも気になっているのか。さっきから会話に入ってこない彼女は、何やら思い詰めているような顔をしていた。


「……キサちゃんは、さっきのオウリくんの意見について、どう思いますか?」


 きっと、話は全然聞いていないのだろう。


「(それなのにこんな質問をするなんて、わたしは最低野郎だな)」

((何言ってんの。だってあんたは))

「(いいんだよ。わたしは、無理し過ぎてはいけないんだから)」

((……そう、ね。あんたがいいんなら、それでいいんだけど))


 キサは急に話を振られたにも関わらず、考え込み過ぎて葵の声に気付いていない。


「キサちゃん。聞いてる?」

「――! なっ、なにあっちゃん?」


 ちょっと強めに言ってから、ようやく彼女が反応してくれた。


「うん。今、『今日のお昼はトムヤムクンでいい?』って話してるんだけど」

「え? トムヤムクン? えっと、みんながそれでいいなら、あたしはそれで……?」


 そんな会議はしていないけど、全く話を聞いていなかったキサはそう答える。いきなりそんな話をし出したので、みんなは葵の意図がわからず目が点になっていた。

 すると葵の表情がどんどん険しくなる。


「……キサちゃん」

「!!」


 まるで、鋭利な刃物に切り込まれたように発せられた自分の名前に、キサは大きく肩を揺らす。


「キサちゃん、今は何時ですか」

「えっと。……17時です」

「そうですね。お昼ご飯なんて、もうとっくに終わってるんですよ。ついでに言うと、今は歓迎会についての会議中です」

「……え、っと……」


 どんどんキツくなる葵の口調に、キサは身を縮こまらせ顔を歪めていく。


「みんながちゃんとどうするのか考えて、案を出し合っているんです。会議に参加もしない、人の話もまともに聞けないのなら、出て行ってください」

「っ、アンタ! そんな言い方――」


 ツバサはそう食ってかかるが、キサはバッと立ち上がった後、苦しそうな顔をしながら生徒会室を走って出て行ってしまった。