「……あのさ」と、彼が話し出す。
「お前はオレが、誓いを成功させるって確信しちゃってるわけですか」
「? そうでございますよ?」
「相手に届かせるまで諦めないって、信じちゃってるわけですか」
「そうでございますよ?」
「それができるまで、お前は見ててくれちゃったりするんでしょうか」
「もちろんでござるよ??」
一体彼は、何が言いたいのだろうか。
でもどこか嬉しそうに、左耳のピアスに触れていた。
そして、立てた片膝に顎を乗せ、首を少しこちらへと傾けてくる。
……なんだこれは。ツンデレ猫さん、ただいまデレver.ですか。めちゃくちゃ可愛いんですけどっ!
「お前は、オレの“誓い”が成し遂げられたら、喜んでくれちゃったりするんでしょうか?」
にこって笑いながら聞くもんだから、葵の心臓は大暴れだ。
それでも顔には絶対に出すまいと必死になって隠しながら、両手を広げて叫ぶ。
「もちろんでございますともっ! 大喜びして屋上から飛び降りてしまうかもしれないでございますです!」
「それは是非ともやめていただきたい」
さっきの歯切れが悪くなった彼はどこへやら。
ノリがいい彼のツッコミは、される側も気持ちがいい。
「それじゃあ、頑張っちゃいましょうかねー」
そう言った彼は本当に嬉しそうだ。
……いや、楽しそうだった。
こうして突如始まった90分の逃亡劇は、二人の笑顔とともに幕を閉じたのだった。
「てか、お前なんか臭うんだけど」
「やっぱり!? お金持ち学校とはいえ、倉庫にほったらかしになっていたジャージはやっぱり臭いかー……」
「げっ! お前、誰のかもわからないの着てんのかよ」
「だってしょうがないじゃないか! 瞬殺で捕まるチカくんが悪い!」
「いや。それはだって、あんなガタイのいい奴いるなんて思わねーし」
「それは言い訳である」
「なっ、なんだと! 大体、お前のその恰好は何だよ! オレマジで通報しそうになったわ!!」
「なにお~!! 元はと言えばっ」
そう口喧嘩をしながら、二人は葵が倉庫に置いてきた制服を取りに行った。
歩いている最中、横目でちらっと見た後、そっと目を逸らし口元を手で押さえる。チカゼの横顔は、ほんのり赤くなっていた。
「(……ぜってー気付いてねえな、これ)」
きっと、葵は気付いていないのだろう。
「(はあ。……さて、どうしたもんか)」
彼が二重に込めた、誓いの意味も――――左手首に巻かれた意味も。



