「……はっ。ばーか」
小さく、乾いた笑い声。続いた悪口も、決して嫌なものではなくて。どちらかというと、優しい響きを持っていて。
よくわからず頭を捻っていると、こつんとおでこ同士がぶつかる。
ゆっくりと薄く目を開くと、彼は目を閉じ、はあと息を吐いていた。
「諦めない、……か」
「どうして、こんな奴……」と、よくわからない声がだけが、ぼそぼそと耳に届いた。
【残り時間……あと2分】
「(チカくん、本当にどうしたんだろう……)」
様子のおかしい彼を心底心配していると、チカゼはゆっくりと離れていき、そのまま自分のネクタイを緩め始める。
そして、解いたネクタイを今度は、葵の手首へと巻き付けていく。
【残り時間……あと1分】
「え? ち、チカくん?」
「……オレ、お前にはちゃんと言っておこうと思う」
「うん? 何を?」
「さっきは本当にありがとう。話も、助けてくれたことも。すげー感謝してる」
言いながら彼は、葵の手首にネクタイを巻き終えた。
「だから、これは誓いだ」
「誓い?」
「そう。……オレはお前の言う通り、ジンクスに乗っかってみようと思う。諦めない。相手に……届くまで」
そう言って彼は、ネクタイが結ばれた葵の手を握り直す。
「オレ、頑張るから。……だから、お前もちゃんと見とけ」
ニカッとしたお得意の笑顔とともに。その誓いを、葵はしっかりと胸に刻み込んだのだった。
【残り時間……あと0分】



