楪 晴は、れっきとした女だ。
女とは信じ難いほどの驚異的な喧嘩っぷりではあったけれど、それでもれっきとした女だ。
喧嘩は負けなし。生まれ育った地元でさえも“氷のプリンス”の異名が定着してしまっていたことからも、最初から最後まで、楪 晴という人間を男だと信じて疑わなかった人間の方が多いはず。
なのに、何故。
晴が最も恐ろしいと思ったのは、自分が完全に男子学生服を着ているにも関わらず、気付かれてしまったという事実だった。
自分で認めてしまうのは悲しいことだったけれど、晴は自分が中性的な顔立ちをしていることについての自覚はあった。男にしては女っぽく、女にしては男っぽい───というよりはもはや、性別なんてどちらでもいいのではないかとさえ、見る者に思わせてしまうほどの神秘的とも言える美しい雰囲気を纏っていたのだった。本人に、そこまでの自覚はなかったけれど。
今から入学式で、今日からまったく見知らぬこの土地で新しい生活をスタートさせる身であるというのに、初っ端からこんなギリギリセーフ(なんならアウト)な状態で大丈夫なのだろうかと、これからのことを考えると少し不安にもなった。
が、この近辺には高校が腐るほどある。あの金髪男も制服を着ていたから同じく高校生なのだろうけれど、同じ学校でもない限り、街ですれ違うようなこともそうそうないだろう。なぜなら晴は、入学と同時に学生寮にお世話になるからだ。朝の通学路でばったり出会ってしまう展開は避けられる。
……いや、待てよ? しかしながら。
晴は再度、金髪男のことを頭に浮かべ、───その後、少々困った顔をする。
あまりに突然すぎる男の告白に動揺し、きちんと確認することはできなかったのだが、冷静になった今、よくよく思い返してみればあの男、同じ学校の制服を着ていたような気がするけれど───、
そんな、まさか、ね?
