階段下のオカルト研究部に唯一与えられた空間で、生徒達が頭上を行き交うのを感じながら一人。
 わたしは、「はぁぁぁぁぁ」と、ガッツリ長いめのため息をつく。

 「仕方にゃかろう? 紅羽には、霊感はにゃいんだから。頑張るのにゃ!」

 招き猫のミタマちゃんが、わたしを励ます。
 木製の招き猫ミタマちゃんを膝の上に抱えて、暗い階段下で一人座っていれば、よほど哀れに見えるのか、時々、空き缶の中に十円だか一円が投げ込まれてカラカラ音がする。
 いや、さすがに要らないし、そんな小銭。

 自分でベニヤ板で作った看板には、『怪異相談承ります』と書いてあるが、わたしがこのオカルト研究部に入ってから二ヶ月の間に相談を持ち込まれたことはなかった。

 「廃部……仕方ないのかなぁ」
 「にゃにを言うか! そうなれば、中等部は怪異の餌食! 学園は闇に飲まれてしまうであろう!」

 うう……でも、生徒会長の紅羽が、鏡子さんに呪われているのもどうしようもないのに、どうしたら良いのか。
 あんな強そうな怪異、わたしじゃどうしようもないよ……打つ手なし。

 そもそも、わたしはこんな階段下で、乙女の青春を無駄にする予定ではなかったのだ。
 今、高等部で、イギリスに留学してしまったイケメン中条院黒羽(ちゅうじょういんくろは)様にスカウトされたのだ。

 入学式の日に、ミタマちゃんが猫の姿で門柱で日向ぼっこしていたから、可愛くって撫でたのだ。
 そうしたら、黒羽先輩が、「良かった! ミタマちゃんが見える人、見つかった!」って、大喜びしてくれて……うわぁ、イケメンだぁ……猫だぁ……って、流されている内に、オカルト研究部に入部。

 そして、一ヶ月、黒羽先輩とミタマちゃんと仲良く部活動している内に、黒羽先輩は、イギリス留学に旅立ってしまったのだ。

 紅羽に鏡子さんが取り憑いたのは、黒羽先輩が留学した直後、そして、紅羽は、黒羽先輩がいなくなったのをいいことに、オカルト研究部を廃部にしてしまったのだ。

 「ともかく、いきなり鏡子さんのような強い怪異を倒すのは、彩音には無理じゃ。まず、小さな怪異と対決して、徐々に強くならねばならぬ」

 ミタマちゃんはそう言うけれど、そもそも、怪異なんてほぼ学園にいないじゃない。
 だって、それもそのはず、黒羽先輩は、とっても優秀な人だったから、学園中の悪い怪異をやっつけてしまっていたのだ。
 今、学園に悪い怪異は、ほとんどいない。

 「じゃが、黒羽がいなくなって、鏡子が出て来たにゃ! ということは、これから徐々に怪異も増えてくるのにゃ!」
 「え、それ、普通に嫌なんだけれど」

 なぜ、可憐な乙女の青春を、怪異退治に費やさなければならないのか。
 答え:イケメン黒羽先輩と、猫のモフモフに釣られてしまったから。

 ぜったい、道を誤った。
 
 「あの……オカルト研究部って、怪異の相談、乗ってくれるの?」

 来なくていい客が、本当に来てしまったようだ。
 
 ペコリと頭を下げたのは、男の子だった。