七番目の鏡子さんと招き猫

「で、何? どんなことが起きたの?」

 紅羽に大人しくしていろって言われたことは、この際すっかり忘れることにして、八重てやに聞いてみる。

「なんか、せっかく作ったケーキが食べてもらえないの」

 八重てやは、悲しそうな顔をする。
 そりゃ悲しいよね。
 だって、ケーキって、作るの大変なのだ。わたしも作ってみたことはあるけれども、膨らまなかったもの。
 
「単にまずかったのでは……」

 田沼君がポソリとつぶやく。

「は? ありえんし。あたしのつくるケーキだよ? そんなの美味しいに決まっているし」

 八重てやが、ぶちぎれる。

「田沼君、それはちょっと駄目だと思う」
「え……そう? だって、食べない理由なんて」
「うっさい! そんなはずないし!」

 そんなはずないと思うから、八重てやは悩んでいるのだ。
 
「おかしいんだよ。最初はちゃんと皆おいしいって言って食べてくれていたのに」
「最初は?」
「そう! 最初は! それが、ここ最近になって急に食べてくれなくなって」
「ふうん……最近……」

 そうなんだ。それは、変だ。
 わたしは、一つ気づいた。
 演劇部の怪異も、最近になって現れたのだと言っていた。

「わかる! 囲碁将棋部も、変になったのは、つい最近のことなんだ」

 田沼君が、八重てやに賛同する。
 そうなんだ。囲碁将棋部の怪異もなんだ。

 最近……そうか、最近になって、急に怪異が動き出したんだ。
 それって……。

 わたしの頭の中に、黒羽先輩の顔が浮かぶ。
 あ、そうか。
 黒羽先輩が学園からいなくなって留学しちゃったから?

「ねえ! ミタマちゃん?」
「なにかにゃ?」
「怪異が突然動き出したのって、黒羽先輩がいなくなったから?」

 わたしの言葉に、ミタマちゃんがふむ……と、考え込む。

「あるかもしれんにゃ。 だけれど、まだ、可能性。それだけが原因と考えるのは、ちょっと短絡的だにゃ」

 そうなんだ……。
 でも、八重てやの言っている異変も、なんだかやっぱり怪異っぽいような気がする。

「分かった! 調べる!」
「わ、ありがとう!」
「だから、試しにケーキを作って!」

 ワクワク……。いや、決して、ケーキ目的では……。
 ワクワク……

「もちろんよ!」

 やった! 今回の仕事は、ちょっと楽しみかもしれない。

「分かりやす過ぎる……」

 田沼君が、呆れた目でわたしを見ていた。

 ち、違うから! 怪異をやっつけるためには、ほら、どんなケーキなのかも見ておきたいから!