七番目の鏡子さんと招き猫

 とりあえず……解決はしたと思うの。解決はしたし。
 うん。
 無事に公演は終わって、緞帳が降りている。
 一階にいた観客達は、わらわらと帰り始めている。

 わたしの足元には、怪異に眠らされている演劇部員たちが数名。

「起こさなきゃ、だよね」
「そうにゃ。こう……」

 ぽふぽふとミタマちゃんが前足の肉球で手近な人の頭を叩くが、起きない。

「駄目だよ。ミタマちゃんのこと、この人達は見えないし感じないんだもの」
「本当、不便にゃ!」

 ミタマちゃんがむくれている。
 可哀想に。こんなに可愛いミタマちゃんが見られないなんて、この人達は、人生の半分……は、言い過ぎか、百分の一くらいは損しているかも。
 まあ、見えないから、怪異と戦わないで済んでいいるんだけれども。
 あれ、じゃあ、見えた方が損しているかも。

 まあ、いいか。
 取りあえず、怪異はいなくなったのだ。
 起こしてあげなきゃ。

「起きて! 大丈夫ですか?」

 わたしは、手当たり次第に足元に転がる演劇部員達に声を掛ける。

「え……あれ? 舞台は?」
「終わっていますよ」
「うそ! 照明どうしよう!」
「大丈夫! ちゃんとできていました」

 怪異さん、真面目に照明の仕事はこなしていたとみえる。


 ……だって、お芝居、大好きだもの。

 私の耳に、少女の声が響く。

「え……」

 顔を上げると、おさげの女の子が宙に浮いて微笑んでいる。
 わたしの中に、彼女の心が流れてくる。
 
 ◇ ◇ ◇

 彼女は、このギャラリーで、裏方の仕事を一生懸命にこなしていた。
 演劇が好きで入った演劇部。
 舞台では、さきほど奈乃花さん達が演じていたのと同じ、オペラ座の怪人が上演されている。
 
「次、ヒロインに赤い照明」
「はい!」

 少女は、一生懸命に、照明を操作して舞台を盛り上げる。
 少女の目に映るのは、キラキラと輝いて見えるヒロイン役の少女。

「カッコイイ……」

 ヒロインの歌声が、講堂に広がり、少女はうっとりする。

「ほら、早く!」

 うっとりしている間に、タイミングを逃してしまった。慌てて、台本を暗がりで確認するための懐中電灯を落としてしまった少女は、取りに行こうとして……。

 不運な事故だった。
 ギャラリーから、一階へと降りる梯子をかけた穴に落ちてしまったのだ。
 そして、打ちどころが悪く、そのまま少女は帰らぬ人になった。
 学校は、梯子を撤去して、穴を塞いだが、少女の心は、ここに残ってしまったのだ。

 ……やっと、舞台が終わったわ。

 少女は、わたしに手を振った。
 わたしも、少女に手を振り返したんだ。

「さよなら」

 わたしの言葉に、ニコリと笑った少女の姿は、そのまま、すっと消えてなくなった。