確かにロマンチック成分は彼が一番あるかもしれない。いかにもな王子様顔で、直で聞きたくなるような熱烈な台詞も多い。熱くなって暴走はしやすいけれど、ひねくれていなくて真っ直ぐで変な趣味もない。

「でも……あの通りに辿ったのに幸せにはなれなかった。次からは勇気をもって私の言葉で男性と話してみます! アーロン様は諦めます。ゲームの通りに進んでしまうという呪いに彼もかかっていたのかもしれませんね。あのあと、私への想いは残っていないように見えました。残念ですが、お幸せに!」
「え……いえ、私もいらな――」
「レヴィアス様が相手でも応援しますね。次に生まれ変わったらもう少し積極的になれるよう、今から駄目で元々で頑張ってきます!」

 彼女が立ち上がった。
 スカートがふわりと揺れる。

「爆死してきますね!」

 アーロンの隣にいた時よりもずっと可愛い顔で私に微笑むと、少し先にいる男性の元に走っていった。

 ハワード・テストロン。
 三人目の攻略対象者だ。見た目はものすごく地味。深い緑の髪をキュッと後ろで結んでいる。彼を選んだ場合のみ不幸になる人は現れない。その反面、エロスな世界に入ると言葉攻めが半端ない。学園卒業後は王家お抱えの薬師の一人になる。研究マニアだ。

 待って……アーロンとくっついてくれないと、私の婚約がそのままになってしまうんじゃ……。

 ハワードー!
 早まらないでー!
 アーロンー!
 彼女とヨリを戻してー!

「レイナ様ったら、あのようなことがあったのに彼女に話しかけてあげるなんて、お優しいですわね」

 あ……わらわらと知り合いの貴族のお嬢さんたちが寄ってきた。

「話しかけることないですわ、アーロン様を侮辱するなんてもっての外です! アーロン様も酷いですけれど……」
「い、いいのよ、若いのだから調子に乗ることもあるわ。冷静に物事を見れなくなる時だってあるわよ。反省しているのだから忘れてあげましょう」
「レイナ様ったら……なんてお優しい……」

 忘れてもらわないと困る。
 だって実際、彼女はアーロンを馬鹿にする発言をしていない。本当に言っていたのか問題が出てくると、困るのは私だ。私による嫌がらせはなかったという証明があの場では難しかったからそうしたけど……。

「それも含めて夢だったのよ。そう思って、皆も話しかけてあげてほしいわ」
「レイナ様がそうおっしゃるのなら……」

 罪悪感が募るわね。

『誰かを不幸にすることで掴み取る幸せは、長続きしないわ……』

 ――自分の言葉が突き刺さるようだ。