「なんて優しく慈悲深い……あなたこそ、この国の王妃に相応しいかもしれませんね」

 そう言ってるわりには、気持ちを感じない。

「私は未来の王妃に相応しい方を自分の目で見定めたいと婚約者をもうけてはいなかった。今までお断りをしていました」

 そう……コイツには婚約者がいない。
 
 アーロンとヒロインが結ばれた場合、さすがに婚約破棄までするのは……と貴族からの支持が下がり出自もよくはないので、アーロンはヒロインの家の男爵位を継ぎつつ王家からも領地を分けてもらってエロエロに暮らすという平和なエロエンドだった。王位はレヴィアスが継ぐ。私の扱いについては一文あったかどうかで……覚えていない。学園を退学してどこかに逃げるように嫁がされたんだったかな……私の印象も悪くなってしまうので、レヴィアスと結ばれるなんて展開にもならない。
 レヴィアスとヒロインが結ばれた場合は、私とアーロンが愛のない結婚をする。アーロンが愛人の子なので釣り合いのためにも私が婚約者ってことになったんだろうけど……彼の好みは庶民系の女の子だからなぁ。仲よしとはいかない。王位はアーロンが継承することになる。レヴィアスが、身分違いの愛を選んだ自分は引くべきだという信念のもとに継承権を放棄するからだ。ヒロインはややエス気味の彼と青空の下でのドエロエンドを迎える。

 ああ――、どうして私はこのような世界に――!

「私と婚約をしていただけないでしょうか、レイナ嬢。全てを許しながらも人を諫めることのできるあなたと、この国の平和と安寧を目指したい」

 彼が跪いて、恭しく私の手をとった。

 ここにいる貴族の支持率をより上げるためのパフォーマンスだ……私を道具にしか思っていない。

 彼は義務感も強い。王位に拘っていなくても、王位を望んでいると周囲に思わせるのも自分の仕事だと割り切っている。正妃の子……最初から貴族の支持も自動的に彼の方が大きい。王子様らしい顔をしているのはアーロンだけれど、レヴィアスは孤児院などへの寄付ついでに温かい言葉をかけに直接出向いたりと自分の印象をよくすることに余念がない。このままいけば、彼が王位を継ぐ。その責任感だ。