「今はいらないっ。その満足は本当に今はいらないわ!」
「君は嘘が上手いからな」
「これは嘘じゃないわよ!」
「妻の嘘を暴くのも夫の仕事だ」
「嘘じゃないってば!」

 それでも、私と彼だけの関係を築いていると感じる。まぁ、さすが18禁の乙女ゲー世界ですねとも思うけれど……。

「私のための衣装を着た君に何もせずにいろと?」
「そうよ、我慢しなさいよ」
「……冷たいな」

 あー、もう彼の手が……!

「だが、安心するといい。そう言うと思って、夜のためのウェディングドレスも用意してある」
「な……にそれ……」
「夜のためと言えば夜のためだ。楽しみにするといい」
「だったら今はもうやめて」
「宴の前に妻を癒やしてあげたいという愛だよ。君の望んだ愛だ」
「私の望んだ愛とは形が違いすぎる……」
「私の望んだ愛とも違うな」
「え」

 少しショックを受ける。
 私の気持ちは、彼の望んでいた愛ではなかった?

「……そんな傷ついた顔をしないでくれ。守りたくなってしまう。笑顔にしたくなってしまう。もう少し……私が安心できるように躊躇せず軟禁できるような愛がよかったという意味だ」
「さすがにそれはやめて……」

 その愛は避けられてよかった。一歩間違えたらそんなエンドもあり得ることは、よく知っている。

「お互いの歩み寄りの結果の愛だな」
「ええ、そうなってよかったわ。妥協が大事よね、妥協が」
「君がそんなふうだから私がその気になってしまうんだ――」
「ちょっと、今すぐにでも私たちを呼びにくるかもしれないのよ!」
「気にするな、待たせておけばいい」

 あの日から始まった私たちだけの物語。なぞる道もなく、手探りながら進んだ先はそれなりに幸せだ。

 窓の外は透き通った青空。太陽の光が部屋へと差し込んでいる。あの青空の下でのドエロエンドが明日にでも控えている気はするけど……。

「私のこと、ずっと愛してよね」
「やっとその気になってくれたか」

 次の世界が私を待ち受けているとしても、きっと誰かと愛し合える気がする。ガチャガチャなんかなくたって、一緒にいたいと思える男性と出会える気がする。チェルシーもブレンダもきっとそう思っている。

 この世界に、そう思わせてもらった。
 
「生まれ変わっても愛し合えるかな」
「ああ――」

 転生したのかもしれないという話も彼にはした。そうでないと最初の私の言葉について説明できなかったからだ。

「大丈夫だ、どこまでも付き纏ってやろう。今も未来もその先も。約束するよ」
「最高の口説き文句ね。……大好きよ」

 あーあ……また本格的に化粧直しをしてもらわないといけないな……。

 満足したとは言えない前の私の人生。彼といれば、いつだって満足させてもらえる。

 ――いろんな意味でね!


〈完〉