敏腕システムエンジニアの優しすぎる独占欲〜誰にでも優しい彼が、私にだけ甘すぎる〜

会議室に二人で入ると、藤堂さんがドアを静かに閉め、私を振り返った。

その表情は真剣で、いつもより少し硬い。

「木崎、例のクレームのこと……本当なのか?」

その言葉に、胸がぎゅっと締め付けられた。藤堂さんにだけは勘違いされたくない。

「違います! 私、そんなこと……!」

勢いよく否定する私を、藤堂さんはじっと見つめた。

「……そう。それなら良かった。でもな」

彼は少し間を置いてから、静かに言葉を続けた。

「こういうクレームが入るのは、何か誤解を生むような隙があったからかもしれない。
木崎が悪いわけじゃないのは分かってる。けど、気をつけるべきことが本当になかったか、自分を見つめ直してほしい」

その一言が、胸に深く刺さる。叱責ではなく、私を思ってくれているのが伝わる言葉だった。

それが、余計に苦しく、私の心を締め付ける。

「……私……」

何を言えばいいかわからなかった。今の私には、何も証明できない。

藤堂さんが小さくため息をつき、困ったように眉を寄せた。

「俺は木崎のことを信じたいし、力になりたいと思ってる。だからこそ木崎には、もっと自分を大切にしてほしい」

その優しい声が、心の奥に染み渡ると同時に、重く響いた。

――大切にしてほしい。

その言葉の奥にある、私を完全には信じていない藤堂さんの本心を感じ取ってしまった。

「……申し訳ありませんでした」

こみ上げる涙を必死に堪えて、それだけを絞り出すように言い、頭を下げた。
藤堂さんは一瞬驚いたようだったけれど、すぐに表情を和らげた。

「木崎……」

何かを言いかけたその続きを聞くのが怖くて、私は彼の言葉を遮るように身を翻し、その場を立ち去った。

廊下を早足で歩きながら、胸の奥に渦巻く感情を押し込めようと必死だった。

信じてくれなかったこと。そして、藤堂さんに軽い女だと思われたかもしれないこと。

その全てが胸を締め付けて、苦しくて、悲しくて――彼の顔を見るのが怖くなってしまった。