敏腕システムエンジニアの優しすぎる独占欲〜誰にでも優しい彼が、私にだけ甘すぎる〜

「ビールと烏龍茶ひとつずつ」

座りながら飲み物を頼む彼の姿に、過ごした年月の長さを思い知る。

「腹減ってる？なんか適当に頼んじゃっていい？」

そこにいたのは、紛れもなく、付き合っていた頃の京介だった。
決めることが苦手な私を知り、これまでの食の好みから私の好きそうなものを注文してくれる。

ぼんやりとした安心感に飲み込まれそうになり、私はきゅっと両手を握りしめた。

注文をし終わった京介は、硬い表情をした私を見て、予想通りの言葉を口にした。

「あー……俺も悪かったと思ってる。けど、あのときは茉莉のことを思ってのことだったんだよ」

その声は甘く、どこか懐かしさを誘うものだった。

「私のことを思って？」

それでも、私の中には嫌な記憶が浮かび上がってくる。

ボロボロだった。

あの日１日だけのことではなかった、どうしようもなく押しつぶされていたと今なら分かる。

「そうだよ。茉莉のためを思って離れた。でもあれは間違いだったよな？茉莉を苦しめたかったわけじゃないんだ、だからごめん。やり直そう」

あまりにも一方的な言葉に、思わず唇を噛んだ。

復縁なんてありえない。そう思う一方で、彼の言葉が心の奥底を揺さぶるのを感じてしまう。