敏腕システムエンジニアの優しすぎる独占欲〜誰にでも優しい彼が、私にだけ甘すぎる〜

無言の俺に、沙織は肩を落とし、つぶやいた。

「……これ以上一緒にいると、私は自分が嫌いになりそう。だから、もう終わりにしたい」

小さな声で沙織が告げた言葉は、雨の音に溶け込みそうなほどだった。それでも、その意味は痛いほど鮮明に胸に響く。

彼女は微笑んでいた。けれど、その微笑みはひどく痛々しく、俺の胸を締め付ける。

「待って、沙織」
「ごめんね、柊真。あなたの優しさに助けられたこと、絶対に忘れない。でも……私は、あなたの特別にはなれなかったんだよ」

揺らがない意志を持った彼女の瞳は、あまりにも美しかった。

何も言えず言葉が詰まったまま、俺は彼女の背中をただ見送った。
雨の中、遠ざかるその姿がやがて街灯の影に溶けて消えていっても、俺はその場から動けなかった。

優しさが誰かを傷つけてしまうことがあるなんて――その時までは、想像もしていなかった。