木崎が作ってくれた夕食が食卓に並ぶ。湯気の立つ味噌汁の香りが食欲をそそり、一口運ぶたびに心地よい満足感が広がっていく。
「うまい!」
思わず零れた言葉に、木崎がふっと微笑む。その仕草が妙に愛しくて、胸がざわついた。
「木崎って、本当に料理上手だよな。どこかで習ったりしてる?」
冗談めかして問いかけると、彼女は少し照れたように視線を落としながら答えた。
「母が料理好きで、小さい頃からよく手伝っていたんです。そのおかげで、味にはちょっとうるさいかもしれませんけど」
「だからか。ちゃんとした料理が毎日食べられるだけでありがたいのに、こんなにも美味しいんだからな」
木崎は軽く笑いながら「冗談でも、そういうことを言うと私、調子に乗りますよ」と返す。
「冗談じゃないよ。本気で思ってる」
そう言うと、彼女の動きが一瞬だけ止まり、耳まで赤く染まった。……可愛い。こんな反応をされると、もっと言いたくなる。
だが、次に木崎が口にした言葉が、俺の胸に鋭く突き刺さった。
「あの、藤堂さん……。プロジェクトが終わったら、私、新しい家を探しますね」
――何だ、それ。
一瞬、箸を持つ手が止まる。胸の奥に、鋭い棘を突き立てられたような痛みが広がった。
「……そっか。もう、大丈夫なのか?」
努めて平静を装い、何でもないように返したが、声がわずかに硬くなっているのが自分でも分かる。
木崎は箸を置き、少し視線を落としてから静かに微笑んだ。
「はい。これ以上お世話になるのは甘えすぎですし、いつまでも頼っていたら、自分のためにならないと思うんです。本当はもっと早く動き出すべきだったんですけど」
その言葉に、俺の胸にはいくつもの感情が押し寄せた。
驚き、寂しさ、そして彼女の芯の強さへの尊敬――けれど、その中で最も強かったのは、彼女を手放したくないという思いだった。
「……そっか。応援するよ。でも……寂しくなるな」
気づけば、そんな本音が漏れていた。
「木崎のご飯が食べられなくなると、俺も困るし」
冗談めかして言ったつもりだったが、口にしてみればそれだけじゃないことに気づく。困るのは、食事じゃない。木崎が隣にいないことだ。
彼女は少し驚いたような表情を浮かべたが、すぐに柔らかな笑顔を見せた。
「そう言ってもらえると、迷惑だけじゃなかったんだなって、少しだけ安心します」
――違う、そうじゃない。
迷惑どころか、いなくなるなんて考えられない。
俺は今まで、木崎のことを「ただの同居人」だと思っていた。だが、違った。そんなものじゃない。
「……木崎」
無意識に彼女の名を呼んでいた。
顔を上げた木崎と目が合う。俺は、あまりにも率直な気持ちを口にしそうになって、慌てて箸を握り直した。
「本当に美味しいな、今のうちに味わっておこう」
それ以上の言葉は、喉の奥に押し込めた。
俺は今、この気持ちに名前をつけることが怖かった。けれど――もう、とっくに答えは出ている気がしていた。
「うまい!」
思わず零れた言葉に、木崎がふっと微笑む。その仕草が妙に愛しくて、胸がざわついた。
「木崎って、本当に料理上手だよな。どこかで習ったりしてる?」
冗談めかして問いかけると、彼女は少し照れたように視線を落としながら答えた。
「母が料理好きで、小さい頃からよく手伝っていたんです。そのおかげで、味にはちょっとうるさいかもしれませんけど」
「だからか。ちゃんとした料理が毎日食べられるだけでありがたいのに、こんなにも美味しいんだからな」
木崎は軽く笑いながら「冗談でも、そういうことを言うと私、調子に乗りますよ」と返す。
「冗談じゃないよ。本気で思ってる」
そう言うと、彼女の動きが一瞬だけ止まり、耳まで赤く染まった。……可愛い。こんな反応をされると、もっと言いたくなる。
だが、次に木崎が口にした言葉が、俺の胸に鋭く突き刺さった。
「あの、藤堂さん……。プロジェクトが終わったら、私、新しい家を探しますね」
――何だ、それ。
一瞬、箸を持つ手が止まる。胸の奥に、鋭い棘を突き立てられたような痛みが広がった。
「……そっか。もう、大丈夫なのか?」
努めて平静を装い、何でもないように返したが、声がわずかに硬くなっているのが自分でも分かる。
木崎は箸を置き、少し視線を落としてから静かに微笑んだ。
「はい。これ以上お世話になるのは甘えすぎですし、いつまでも頼っていたら、自分のためにならないと思うんです。本当はもっと早く動き出すべきだったんですけど」
その言葉に、俺の胸にはいくつもの感情が押し寄せた。
驚き、寂しさ、そして彼女の芯の強さへの尊敬――けれど、その中で最も強かったのは、彼女を手放したくないという思いだった。
「……そっか。応援するよ。でも……寂しくなるな」
気づけば、そんな本音が漏れていた。
「木崎のご飯が食べられなくなると、俺も困るし」
冗談めかして言ったつもりだったが、口にしてみればそれだけじゃないことに気づく。困るのは、食事じゃない。木崎が隣にいないことだ。
彼女は少し驚いたような表情を浮かべたが、すぐに柔らかな笑顔を見せた。
「そう言ってもらえると、迷惑だけじゃなかったんだなって、少しだけ安心します」
――違う、そうじゃない。
迷惑どころか、いなくなるなんて考えられない。
俺は今まで、木崎のことを「ただの同居人」だと思っていた。だが、違った。そんなものじゃない。
「……木崎」
無意識に彼女の名を呼んでいた。
顔を上げた木崎と目が合う。俺は、あまりにも率直な気持ちを口にしそうになって、慌てて箸を握り直した。
「本当に美味しいな、今のうちに味わっておこう」
それ以上の言葉は、喉の奥に押し込めた。
俺は今、この気持ちに名前をつけることが怖かった。けれど――もう、とっくに答えは出ている気がしていた。



