敏腕システムエンジニアの優しすぎる独占欲〜誰にでも優しい彼が、私にだけ甘すぎる〜

そのとき、会議が終わったのか、彼が椅子に深くもたれかかった。

「ずっと見てたの?」

ふいに視線がぶつかり、私はびくりと肩を震わせる。

「えっ、いえ、その……すみません!」

慌てて謝る私を見て、彼は少し困ったように笑った。

「別に怒ってないよ。あ、珈琲入れてくれたんだ」
「あ、あのはい。改めて、すごいなって。仕事に隙がないし、本当に完璧で……」

藤堂さんは珈琲を受け取りながら、小さく息をついて笑った。

「別に完璧じゃないよ。家事だって木崎に頼りっきりだし」

そう言われると、確かに私が来るまで彼の部屋は殺風景だったし、生活感が薄かった。

「私は藤堂さんのそういう部分も可愛くて素敵だと思います」

気づけば、言葉が口をついて出ていた。言った瞬間、顔が一気に熱くなる。

何を言っているんだろう。藤堂さんに対して、こんなにも素直になってしまうなんて。

「……そう」

彼の声が、ふっと静かになった。
目を向けると、藤堂さんはじっと私を見ていた。

その瞳は優しいのに、どこか切ない。
私が何か言おうとした瞬間、彼はふっと微笑む。

「ありがとう」

それだけ言って、ゆっくり立ち上がった。

……なんだか、寂しそうな笑顔だった。

もっと知りたい。彼の優しさの理由も、誰かの影がない理由も。
彼が隠している寂しさも、全部――。

けれど、それを聞く勇気は、まだ持てなかった。

私はただ、ドキドキする鼓動を隠すように、そっとリビングへと戻るしかなかった。