敏腕システムエンジニアの優しすぎる独占欲〜誰にでも優しい彼が、私にだけ甘すぎる〜

着替えた後、藤堂さんが連れて行ってくれたのはディナーだった。

彼の行きつけだというレストランは、落ち着いた照明と柔らかなピアノの音色が心地よい。
運ばれてくる料理も洗練されていて、目でも舌でも楽しめる。

「どう? 食べられそう?」
「はい、すごく美味しいです。こんな素敵な場所に来たの、初めてで……」

緊張しつつ答える私に、彼は軽く笑った。

「良かった。喜んでくれて」

その一言に、居心地の良い温かさを感じた。

助けてもらったあの日から、私の日常は180度姿を変えていた。この時間は特別で、幸せすぎて現実感がない。

「藤堂さん、どうして私にこんなに良くしてくれるんですか?」

勇気を出して問いかけると、彼は少しだけ目を伏せ、考えるように間を取った後、穏やかに笑った。

「特別な意味はないよ。木崎に元気でいてほしい。それだけ」

言葉は優しく、そして、その真意は曖昧だった。
けれど、その目に浮かぶのは、冗談ではない、確かな温かさ。

——本当に、それだけなの?

曖昧さに踏み込みたい気持ちと、この心地よい時間を壊したくない気持ちが交錯する。

結局、私はそれ以上聞けなかった。彼の言葉に甘えて、この幸せな時間を受け入れるしかなかったから。

この先を確かにすることよりも、彼の隣にいられる今を選んでしまったんだ。