残業を終え、私は重い足取りで帰路に着いた。
玄関のドアを開けた瞬間、むせ返るような空気が喉に絡みつく。暖房の熱とこもった匂い――それらが混ざり合った空気の重たさが、疲れた体に容赦なくのしかかる。
「はあ……」
ため息がこぼれる。自宅に帰ったからといって、職場から持ち帰った暗い気持ちが解き放たれるわけではない。
靴を脱ぎ捨て、荷物を置きながらリビングを覗き込む。
そこにあるのは、無造作に放り投げられた男物のジャケットと、床に散らばるゲームのケースだけ。私は思わず視線を逸らした。
「ただいま」
リビングに一歩足を踏み入れ、思わず口にしたその言葉は、虚しく壁に吸い込まれていく。
返事が欲しかったわけじゃない。でも、言葉にしてしまうのは、まだこの関係が終わっていないと思いたい自分がいるからだろうか。
ふと目に入ったカーペットの上には、脱ぎっぱなしの靴下と洗濯物。それを拾い上げた瞬間、湿った感触が手に伝わり、なんだか心まで汚された気分になった。
テーブルの上には空っぽのコンビニ弁当の容器と、開けっぱなしのジュースの缶。いつもなら、反射的に片付け始めるはずの私の体は、今日ばかりは動かなかった。
代わりに散らかったソファへと倒れ込む。
いつからこんな生活になっちゃったんだろう。
この家の同居人である篠田京介は、三年前から付き合っている彼氏だ。
付き合って一年目に同棲を始めた私たちは、周りから羨ましがられるような“順調なカップル”だったはずだった。
休日を合わせて遊びに行き、些細なことで笑い合い、夢を語り合った毎日が確かに存在していた。
「疲れてるなら座ってていいよ」
そう言って、私のためにキッチンでフライパンを振る彼の姿。ぎこちない手つきに思わず笑い合いながら食べたあのオムライス――妙に美味しかったあの味を、私は今でも覚えている。
玄関のドアを開けた瞬間、むせ返るような空気が喉に絡みつく。暖房の熱とこもった匂い――それらが混ざり合った空気の重たさが、疲れた体に容赦なくのしかかる。
「はあ……」
ため息がこぼれる。自宅に帰ったからといって、職場から持ち帰った暗い気持ちが解き放たれるわけではない。
靴を脱ぎ捨て、荷物を置きながらリビングを覗き込む。
そこにあるのは、無造作に放り投げられた男物のジャケットと、床に散らばるゲームのケースだけ。私は思わず視線を逸らした。
「ただいま」
リビングに一歩足を踏み入れ、思わず口にしたその言葉は、虚しく壁に吸い込まれていく。
返事が欲しかったわけじゃない。でも、言葉にしてしまうのは、まだこの関係が終わっていないと思いたい自分がいるからだろうか。
ふと目に入ったカーペットの上には、脱ぎっぱなしの靴下と洗濯物。それを拾い上げた瞬間、湿った感触が手に伝わり、なんだか心まで汚された気分になった。
テーブルの上には空っぽのコンビニ弁当の容器と、開けっぱなしのジュースの缶。いつもなら、反射的に片付け始めるはずの私の体は、今日ばかりは動かなかった。
代わりに散らかったソファへと倒れ込む。
いつからこんな生活になっちゃったんだろう。
この家の同居人である篠田京介は、三年前から付き合っている彼氏だ。
付き合って一年目に同棲を始めた私たちは、周りから羨ましがられるような“順調なカップル”だったはずだった。
休日を合わせて遊びに行き、些細なことで笑い合い、夢を語り合った毎日が確かに存在していた。
「疲れてるなら座ってていいよ」
そう言って、私のためにキッチンでフライパンを振る彼の姿。ぎこちない手つきに思わず笑い合いながら食べたあのオムライス――妙に美味しかったあの味を、私は今でも覚えている。



