「ただいま帰りました……」

スーパーで買い揃えた食材の袋を片手に、私は藤堂さんの家のドアを開けた。

玄関から見える右手の部屋からはタイピングの音と共に薄明かりが漏れていた。

今日は、ウチとの契約はお休みで、在宅勤務中の彼は、まだ仕事をしているようだ。

足音を忍ばせてリビングに向かうと、整然とした部屋の中に少しものの溢れたキッチンが目に入る。
シンクに並ぶ空のタッパーや皿を見て、思わず微笑んだ。

「作り置き、食べてくれたんだ」

藤堂さんが「つい食事を忘れる」とよく言っていたことを振り返り、最近は昼食用に簡単な作り置きを準備していた。

自己満足かもしれないけれど、こうして彼の生活の一部に自分が役立っていると実感できるのが嬉しかった。