「あれは明らかに村上さんのミスだ。木崎さんに不足はなかった」

はっきりと言い切られ、私は頬を摘まれたまま瞬きを繰り返した。

「そもそも部下のミスであっても責任はその上司にある。村上さんの行動は上司としておかしかった」

私の頬から手を離し、ぶつぶつと文句を呟く藤堂さんに私は驚いていた。

「藤堂さんも、そんなこと言うんですね……」

思わず呟くと、藤堂さんは不思議そうに振り返る。

「そりゃ思うよ。今日は、木崎さんの苦労が、ほんの少しだけ分かった気がする」

苦笑する彼の顔には、本音を漏らしたとき特有の柔らかさが滲んでいた。
私は少し考え込むように視線を落とし、ぽつりと口を開く。

「……私も、ずっと苦手でした。今日みたいに、みんなの前で強くあたられたり、後輩の指導についてダメ出しされたり、何かあるたびに粗探しをされているようで……」

言葉を続けながら、思わず自分でも驚く。こんなに素直に、心の内を語ってしまうなんて。

「あっ、でも、もちろん私が至らないのが悪いので……」

慌ててフォローを入れると、藤堂さんは静かに首を振った。

「いいんだよ。今は業務外だ。吐き出したいときは吐き出せばいい。誰だってそうしてるよ」

その言葉に背中を押されるように、私はこれまで溜め込んでいた不満を少しずつ吐き出した。
藤堂さんは相槌を打ちながら、じっと私の話に耳を傾けてくれる。

「……だから本当に、今日は藤堂さんがいてくれて助かりました」

感謝の気持ちを込めて深く頭を下げると、彼は少し照れたように肩をすくめた。

「大したことしてないよ。でも、そう言ってもらえると悪い気はしないね」

優しく笑う藤堂さんの温かさに嬉しくなる。彼と同じ帰り道、少しずつ緊張がほどけ、心の中が穏やかになっていくのを感じた。