仕事を終え、紙に書かれた通り駅に向かうと、薄手のコートに身を包んだ藤堂さんが待っていた。

その姿を認識してからも、なかなか勇気が出ず無意味に立ち止まってしまう。

同じ会社の藤堂さんと、一緒に家に帰るなんて……。不思議な気持ちと少しの緊張が入り混じり、私はそわそわと周りを見回していた。

「周り、誰もいないよ。大丈夫」

気付いたら近くまで来ていた藤堂さんが私の様子を見て、おかしそうに言う。

「え、あ、はい。すみません……」

気を緩めたつもりが、余計に挙動不審になってしまった。

「今日はお疲れさま」

歩き出して、穏やかに響く彼の声に不思議と肩から力が抜けた。

「ありがとうございます。あの、今日はご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

何気ない言葉だった。その言葉に立ち止まった彼は、不機嫌そうに私を見下ろす。

その表情に私は戸惑って言葉を詰まらせた。

「謝らなくていいことで謝るな!」

わざとらしく怒っているような口調で冷たい指先が私の両頬を摘む。

「へ……?」

意外な一言と行動に、私は驚いて彼を見上げた。