敏腕システムエンジニアの優しすぎる独占欲〜誰にでも優しい彼が、私にだけ甘すぎる〜

「さっきの書類の件、もう少し丁寧に確認してほしいの。それと……」

言葉を選び、言いにくい指摘を迷いながら言語化する。

どう伝えたら彼女に響くのだろう。三年間も彼女を見ている私は、未だに伝え方で頭を悩ませていた。

努力はこれまでに沢山してきた。直接伝えたり、ご飯を食べながらラフに話したり。

それでも変わらない彼女に涙が止まらなくなった日もあった。

そして結局、彼女自身が気にしない範囲なのだろうと言う結論に至ったのだ。

そのとばっちりを受けるのは私なのだからどうにかしたいとは思っていたけれど、私が我慢していたら事は流れるのだから、もうそれでいいかと諦めるようにもなってしまっていた。

ただ、今日のような大きく騒がれた日は形だけでも伝えなければいけない。私は、もう一度覚悟を決め直し、深く呼吸をしてから彼女を見つめ直した。

「前にも少し言ったけど、村上さんが、夏目さんのこと気にしてるみたいだから、社内の雰囲気も考えて行動してもらいたいな」

けれど、結局口から出たのはそんなふんわりとした優しい言葉だった。

強く言えないのは私のダメなところ。周りのように上昇意欲もないし、意思のない私は周りにとってかなり便利な存在だと思う。

「はーい、気をつけますね。でも、私、そんなに悪いことしてるつもりはなくて……。木崎さんも村上さんのこと、そんなに気にしなくてもいいんじゃないですか?村上さんって結構、厄介だって言われてるし……。目つけられてて大変そうですね……」

彼女は困ったように首を傾げた。その言葉に、私は言葉を失う。
確かに目をつけられていることには変わりないが、その理由には夏目さん自身が大きく関与しているというのに……。

「わかった。でも、お願いね」

心のどこかで虚しさを感じつつ、私はそれ以上は何も言えず話を切りあげた。