会議が終わり、私は帰り際に藤堂さんに声をかけた。

「あの、先程はありがとうございました。本当に助かりました……」

緊張しながらお礼を言うと、藤堂さんは少し肩をすくめた。
「別に助けたわけじゃないよ。感情的な文句に時間を奪われるのが嫌だっただけだ」

職場での藤堂さんは、笑顔をあまり見せず淡々と話を進めるタイプだ。その言葉に少し冷たさを感じて、私は思わず言葉を詰まらせた。

「それに、木崎さんが頑張ってるのは見てれば分かるから」

だけど次に発せられたその一言が、じんわりと胸を熱くさせる。私を見ていてくれたことが、何よりも嬉しかった。

「でも……やっぱり申し訳なくて……」

しゅんとした表情でそう返すと、藤堂さんは少しだけ口元を緩めた。

「それなら」

突然、距離が縮まり、彼の顔が私の耳元に近付く。

「明日も美味しい朝飯を作ってくれる？それでチャラってことで」

小声で囁かれたことに驚いたが、その冗談めいた言葉に不安で沈みかけていた心が少し軽くなった。思わず、小さく笑ってしまう。

「分かりました。頑張って作ります」

私の返事に藤堂さんは満足そうに頷くと、少し真剣な表情に戻った。

「データの部分、確認が終わり次第連絡するよ。少しだけ待ってて」
「……はい、お願いします」

彼の言葉が頼もしくて、自然と素直に頷けた。

周りからの非難の視線も、藤堂さんのカバーでいつもよりも少ないように感じていた。