敏腕システムエンジニアの優しすぎる独占欲〜誰にでも優しい彼が、私にだけ甘すぎる〜

出社し、オフィスに足を踏み入れると、どこかそわそわとした落ち着かない気持ちが私を包み込んだ。

朝話していた「契約」というのは、数日前のシステムトラブルでエンジニアとして高い評価を受けた藤堂さんが、当社のプロジェクトに正式に参加することになったこと。

週3の契約で、今日から同じオフィスで働くことになると聞いていたけれど、実際にその日が来ると、どう振る舞えばいいのかわからなかった。

「おはようございます」と周囲に軽く挨拶をして席に向かうと、すでに出社している藤堂さんの姿が視界に入った。

朝、自宅で見送った彼が同じ空間にいることがなんだか不思議で、どこか緊張してしまう。

「木崎さん、これ、確認お願いできますか?」

不意に夏目さんの声が耳に飛び込んできて、ハッと我に返る。

「あ、はい。ありがとう」

渡された資料に目を落とすふりをしながらも、どうしても意識は藤堂さんのほうに引っ張られてしまう。

彼が肩越しに誰かと軽く話をしているのが見えた。冷静な物腰は、やはりオフィスの中で一際目立っている。
その姿が他の社員の間で話題になるのも無理はないと、改めて実感した。

「木崎さん、大丈夫ですか?」

再び夏目さんの声に現実に引き戻される。
資料に集中しているふりをしていたつもりが、完全に手が止まっていたらしい。

「あ、ごめん確認するね」

慌てて視線を落とす私に、夏目さんは軽く笑って首を振る。

「無理しないでくださいね。疲れが溜まってるんじゃないですか?今日は早く帰りましょうよー」

「ありがとう、大丈夫だよ」と返しながら、仕事に意識を戻す。

けれど心のどこかでは、彼のことを気にしていた。
藤堂さんがいるオフィスは普段と少し違うような気がする。

彼の存在が、私の中で確かに大きくなっているのを感じていた。