敏腕システムエンジニアの優しすぎる独占欲〜誰にでも優しい彼が、私にだけ甘すぎる〜

帰路を歩く途中、不意に視界が揺れた。

「……っ」

身体がふらつき思わず足を止めた私を支えたのは、藤堂さんだった。

「おい!大丈夫?」

低く落ち着いた声が耳元で響く。肩をしっかりと掴む彼の手から伝わる力強さに、かろうじて倒れずに済む。

「す、すみません……。ちょっと疲れてて……」

「顔色が悪いな。昨日の今日だし、まだ本調子じゃないのかな。食事も取ってないんじゃない?」

図星だった。否定しようと口を開くものの、うまく言葉が出てこない。
それどころか、力が抜けて藤堂さんのスーツを掴んでしまった。

「こんな状態で帰れるの?」
「……大丈夫です」

無理にそう言い張る私を、藤堂さんはじっと見つめた。その真剣な視線に、思わず言葉を飲み込む。

「近いから、少し休んでいったら?」

不意に投げかけられた提案。

その内容に驚いたけれど、彼の言葉には強引さは微塵も感じられなかった。むしろ、余計な心配は不必要だと告げるような穏やかさが、そこにはある。

「でも……ご迷惑じゃ……」
「迷惑なんて思ってない。それに……帰りたくない理由も、あるんだろ?」

小さく首を振りながら、彼はそっと私の背を押す。
その手から伝わる温もりに、抗う気力を失ってしまった。

「……じゃあ、少しだけ……」

ようやく口を開いてそう答えると、藤堂さんは安心したように微笑んだ。

歩き出した足取りはまだおぼつかないけれど、隣にいる彼の存在が、不思議と心を軽くしてくれる。

街灯の光に照らされた帰り道。藤堂さんの横顔をそっと見上げながら、こんな状況なのに不思議と安心している自分に気づいた。