敏腕システムエンジニアの優しすぎる独占欲〜誰にでも優しい彼が、私にだけ甘すぎる〜

突然、耐えられないといったふうに藤堂さんは吹き出した。爽やかな笑い声に驚いて、私は目を丸くする。

「……あー、ごめん。つい、可愛くて」
「え……?」

言われ慣れていない突然の言葉に、頭が混乱した。気の利いた返しもできず固まる私に、彼は意地悪に口角を緩めた。

「去るときは、お礼くらい言って帰るのが筋じゃない?」

その言葉に私は、確信する。彼は、私の見間違えなんかではなく、本当に昨晩の恩人だった。

「あのっ……!本当にご迷惑をおかけして申し訳ありませんでしたっ!! 助けていただいたのに……その、お礼も言えずに逃げるように帰ってしまい……」

慌てて立ち上がり、深々と頭を下げる私を見て、彼は楽しそうに肩を揺らして笑う。

「冗談だよ。そんなに慌てなくても大丈夫。びしょ濡れで座り込むあなたを見た時は、何事かと思ったけど、今日はちゃんと出社できたんだね」

「本当に助かりました。あの時、あなたがいなかったらどうなってたか……」

真剣に感謝を伝えると、彼の笑顔が少しだけ柔らかさを増した気がした。

「それなら何より。じゃあ、そろそろ帰ろうか。こんな時間まで残業してたら体に悪い」

「で、でもまだ――」
「それ、明日にしても死なないよね?」

あまりにあっさりと言い切られて、私は言葉を失った。

「待ってるから。一緒に出よう」

迷う間もなく、彼の視線に背中を押されるようにして、私はパソコンの電源を落とした。

「……少しだけ待っていていただけますか?」

微笑む彼を横目に、私はようやく書類の山から解放される準備を始めた。