敏腕システムエンジニアの優しすぎる独占欲〜誰にでも優しい彼が、私にだけ甘すぎる〜

「まだ残っていたんですか?」

最後まで誰もいないと思い込んでいた私は、驚きのあまり体を跳ね上げた。

背後を振り返ると、そこには藤堂さんが立っていた。

「えっ、もう帰られたんじゃないんですか?」
「ああ、一度は。でもちょっと気になって戻ってきたんです」

彼の言葉に、私は思わず机の上に視線を落とした。書類の山に埋もれたデスクを前に恥ずかしさで隠れたくなる。

「急ぎの仕事ですか?」

「あ、いえ……その、家に帰る気がしなくて……つい」

苦し紛れに答えた私を見て、藤堂さんは小さく笑った。ランプの光に照らされたその笑顔は、不思議と心を和らげるような温かさを持っていた。

「……大丈夫ですか?」
「え?」

彼が急に真剣な表情を浮かべたので、私は驚いて言葉を詰まらせる。

「午後、長い時間つかまってましたよね。システム部の方にも、村上さんの声が聞こえてました」

「そ、そうなんですか……」

心臓が大きく跳ねる音が聞こえる気がした。
なんとなく、彼には知られたくないと感じていたことが、すべて筒抜けだったことに気づいて恥ずかしくなる。

「実力不足なので仕方ないです。……慣れました」
「慣れていたって傷つく時はありますよね」

彼の柔らかな言葉が、そっと心に触れる。昨夜、雨の中で聞いた声も、こんなふうに優しかった気がする。

私はそっと顔を上げて彼を見た。

目が合うと、藤堂さんはふっと小さく微笑む。その表情は、昨夜の彼そのものに見えて、私は再度彼を見つめた。

でも、もし違ったら――。

そんな不安が頭をよぎり、はっきりと確かめることもできなかったが、迷っている間、長い時間彼を見続けてしまっていたようだった。