敏腕システムエンジニアの優しすぎる独占欲〜誰にでも優しい彼が、私にだけ甘すぎる〜

――やっぱり、人違い。

昨日の彼よりずっと淡々としていて、距離を感じる。
書類を抱えたまま、こっそりと藤堂さんの後ろ姿を盗み見た。

やっぱり、似ている。まるで昨日の彼そのものだと思うのに、親しげだった昨夜とはかけ離れた無機質な態度が、私の中の答えを揺るがす。

「藤堂さんって、普段どんなお仕事されてるんですか?」
「趣味とか、気になりますよね!」
「今日、藤堂さんも一緒にご飯行きません? 課長、いいですよね?」

オフィスの一角から、弾むような声が聞こえてくる。
朝からのトラブルで慌ただしかった空気は、すっかり忘れ去られていた。

まるで、みんなが一斉に藤堂さんのファンになってしまったみたいに、夢中で彼に話題を振る。

「お誘いありがとうございます。でも今日は遠慮しておきます」
「えー、なんでですか?」
「もしかして、彼女さんとかいるんですか?」

その問いが投げかけられると、オフィスの空気が一瞬静まり返った。

私も無意識に息をのんでしまっていた。

藤堂さんは少し考える素振りを見せ、それから柔らかく微笑む。

「気になっている人は、いるかな」

――その言葉に、オフィス中がざわめいた。

かすかに落胆の声も混じる中、私の胸は、ぎゅっと締め付けられる。

――昨日の彼に似ているだけなのに。

どうして、こんなにも心が苦しくなるんだろう。
昨日の優しさが、頭をよぎる。
あのときのあたたかい言葉や、穏やかな笑顔。
もし、本当に彼だったとしたら――。

……いや。
たとえそうでも、私には何の関係もない。

「羨ましいな……」

思わず口をついた言葉に、自分で驚く。
それでも――そう思わずにはいられなかった。

あの優しさに、毎日触れられるなんて羨ましい。

そう思ってしまうのは、非日常的な優しさに触れてしまった私には、仕方がないことだった。