敏腕システムエンジニアの優しすぎる独占欲〜誰にでも優しい彼が、私にだけ甘すぎる〜

輪には加わらず、遅めの昼食に向かおうと席を立とうとした、その瞬間――

「あの」

聞き覚えのある声が降ってきて、思わず顔を上げる。

「えっ……」

そこに立っていたのは――昨日の雨の夜に出会った、あの人だった。

――いや、似ているけど、違う?

一瞬、混乱したけれどすぐに気づく。

そこに居るのは、先ほどから話題の中心にいる藤堂さん。
けれど、初めて近くで見た彼は、柔らかいパーマが優しい印象を与えるスーツ姿。落ち着いた雰囲気で大人びたその姿は、昨日の彼にあまりにも似ていた。

ーーいや、いやいやいや冷静になれ、私。

昨日の出来事は、幻だったとしてもおかしくないほど幸せな記憶。きっと私の中で重ねてしまっているんだ。

「この手続き、こちらでお願いしても問題ないかな?」

彼の言葉に、一瞬動揺し、返事が詰まる。

「……え、はい、大丈夫です!」

なんとか答えて書類を受け取ると、彼は軽く会釈をして静かに席へ戻っていった。