「手を止めずに聞いてほしい!」
社長の声がオフィスに響き渡ったのは、出社して二時間ほど経った頃だった。慌ただしく動く手を止めることなく、全員が耳を傾ける。
「知り合いのエンジニアに応援に来てもらった。藤堂柊真さんだ。
昔、一緒に仕事をしたことがあって、彼の優秀さは保証する。これからは彼の指示に従ってくれ!」
社長の隣にはスーツ姿の長身の男性が立っていた。
背筋をまっすぐに伸ばし、涼やかな目で周囲を見渡すその姿に、自然とざわめきが起こる。
「うわ、すごいかっこいい……」
「確かに。でも、こんな時に呼ばれるなんて大変だよね。それに、外部の人を入れるなんて大丈夫かな?」
混乱の中でも、彼のオーラはひときわ目を引いた。緊急事態にもかかわらず、一瞬だけ社内の関心が彼に奪われる。
しかし、紹介された藤堂さんはそんな雑音を意にも介さず、まっすぐシステム部へ向かった。席に腰を下ろすと、それまでのざわめきが嘘のように静まる。
「ログはすべて洗い出しましたか?」
低く落ち着いた声が響く。問いかけられたシステム部の社員が、たどたどしく答えた。
「えっと、まだ一部だけで……」
藤堂さんは軽く首を振り、すぐに的確な指示を出し始める。
「今すぐ確認を進めて。エラー箇所を早急に特定する必要がある。遅れは許されない」
その冷静さと正確さが、混乱していたオフィスの空気を一変させた。まるで嵐の中に現れた灯台のように、彼の存在が場の中心になっていく。
「すごいな……」
「一流って感じ。社長、よくこんな人呼べたな」
同僚たちの驚きの声が聞こえる中、私はふと、昨晩の出来事を思い出していた。
彼の立ち振る舞いや、低く響く声が、どこか昨夜の名前も知らない男性と重なって見える。
記憶の中で蘇る、あの温かい声。優しく支えられた、あの瞬間。思い返すだけで心臓が軽く跳ねた。
「……いや、何考えてるの、私」
ざわつく胸を押さえながら、もう一度、藤堂さんの横顔をそっと見つめる。少し斜め後ろから見るその横顔は、やっぱり記憶の中の彼に似ている気がした。
「木崎さん、手が止まってるわよ!」
村上さんの鋭い声が響き、私はハッとして現実に引き戻された。
「すみません!」
慌てて作業に戻るものの、心のざわつきは簡単には収まらなかった。
社長の声がオフィスに響き渡ったのは、出社して二時間ほど経った頃だった。慌ただしく動く手を止めることなく、全員が耳を傾ける。
「知り合いのエンジニアに応援に来てもらった。藤堂柊真さんだ。
昔、一緒に仕事をしたことがあって、彼の優秀さは保証する。これからは彼の指示に従ってくれ!」
社長の隣にはスーツ姿の長身の男性が立っていた。
背筋をまっすぐに伸ばし、涼やかな目で周囲を見渡すその姿に、自然とざわめきが起こる。
「うわ、すごいかっこいい……」
「確かに。でも、こんな時に呼ばれるなんて大変だよね。それに、外部の人を入れるなんて大丈夫かな?」
混乱の中でも、彼のオーラはひときわ目を引いた。緊急事態にもかかわらず、一瞬だけ社内の関心が彼に奪われる。
しかし、紹介された藤堂さんはそんな雑音を意にも介さず、まっすぐシステム部へ向かった。席に腰を下ろすと、それまでのざわめきが嘘のように静まる。
「ログはすべて洗い出しましたか?」
低く落ち着いた声が響く。問いかけられたシステム部の社員が、たどたどしく答えた。
「えっと、まだ一部だけで……」
藤堂さんは軽く首を振り、すぐに的確な指示を出し始める。
「今すぐ確認を進めて。エラー箇所を早急に特定する必要がある。遅れは許されない」
その冷静さと正確さが、混乱していたオフィスの空気を一変させた。まるで嵐の中に現れた灯台のように、彼の存在が場の中心になっていく。
「すごいな……」
「一流って感じ。社長、よくこんな人呼べたな」
同僚たちの驚きの声が聞こえる中、私はふと、昨晩の出来事を思い出していた。
彼の立ち振る舞いや、低く響く声が、どこか昨夜の名前も知らない男性と重なって見える。
記憶の中で蘇る、あの温かい声。優しく支えられた、あの瞬間。思い返すだけで心臓が軽く跳ねた。
「……いや、何考えてるの、私」
ざわつく胸を押さえながら、もう一度、藤堂さんの横顔をそっと見つめる。少し斜め後ろから見るその横顔は、やっぱり記憶の中の彼に似ている気がした。
「木崎さん、手が止まってるわよ!」
村上さんの鋭い声が響き、私はハッとして現実に引き戻された。
「すみません!」
慌てて作業に戻るものの、心のざわつきは簡単には収まらなかった。



