敏腕システムエンジニアの優しすぎる独占欲〜誰にでも優しい彼が、私にだけ甘すぎる〜

ふと、昨日出会ったあの男性の笑顔が脳裏をよぎった。
あのとき感じた温もりは、自分を否定し続けてきた日々の中で、「貴方は間違ってないよ」と優しく囁くようだった。

私は、もっと自分を大切にしていいのかもしれない。
その想いが、心に小さな灯をともす。

私は息を整え、覚悟を決めて口を開いた。

「ねえ、京介」

静寂を切り裂くような、かすれた声。
振り返った彼の目には、わずかに苛立ちの色が浮かんでいた。

「……何だよ」

その言葉に、私の中で揺れていた迷いがすっと消えていく。

「京介とは……もうやっていけないと思う」

静かに告げたその言葉には、これまで積み重ねてきた過去との決別と、これから踏み出す一歩が込められていた。
京介は一瞬だけ目を見開いたが、すぐにだるそうにため息をつく。

「本気で言ってんの? 後悔すると思うけど」

――きっと、京介にとって私は、何を言っても離れない、都合のいい存在だったんだ。

小さく頷くと、京介は視線を逸らし私に背を向けた。

「……いいよ。本気なら好きにすれば? 別にお前に執着してたわけじゃないし。お前、ほんと地味だしな」

そして重ねられたその言葉に、私は静かに目を閉じた。
胸の奥で、何かが音を立ててきしむ。

「引っ越すまで、ここには帰るけど、それでいいよね」

京介は無言のまま、腕時計を巻き、準備を再開する。その背中に、かつて感じた優しさの面影はなかった。

あっさりと終わった私たちの3年間。
終わらせてしまえば、不思議と後悔は残らず、私はスッキリとした気持ちで家を出た。