敏腕システムエンジニアの優しすぎる独占欲〜誰にでも優しい彼が、私にだけ甘すぎる〜

すっかり片付いたテーブルを眺めながら、バッグからメモ用紙を取り出した。そして、簡単に一言だけ書き込んだ。

「助けてくれてありがとう。おかげで、ほんの少しだけ楽になれた気がします」

そのメモをテーブルの中央にそっと置く。そして、もう一度振り返る。彼はまだ眠っていた。疲れた顔をしながらも、その表情はどこか穏やかだ。

――きっと素敵な人なんだろうな……。

感謝の気持ちとともに、ほんの少しの名残惜しさが混じる。でも、この人に出会えてよかったと、心からそう思えた。

深呼吸をして、彼に小さく頭を下げると、私はそっと部屋を後にした。

廊下に出ると、外は曇り空が広がっていた。雨上がりの朝の空気がひんやりと頬を撫でる。

状況は何も変わってはいない。けれど、昨日の重苦しい絶望感は、確かに薄らいでいた。

振り返ると、あの部屋のドアがまだそこにある。昨夜の出来事が夢のように思えた。でも、それが確かに現実だったということは、胸に残る温かさが教えてくれる。

ほんの少しだけど、明日が怖くなくなった気がして、なんとか前を向くことが出来そうだった。