リビングに戻ると、湯気の立つマグカップがテーブルの上に置かれていた。ふわりと漂う柔らかな香りが、張り詰めていた胸の奥をそっとほぐすように広がる。
その優しい香りに、思わず足が止まった。
「……ありがとうございます」
ようやくそれだけを口にする。彼は軽く頷いただけで、何も言わなかった。
ハーブティーを一口飲むと、ほんのりとした甘みが口の中に広がる。それは冷え切っていた体を内側からそっと温めてくれるようで、無理に凍らせていた私の心を静かに、ゆっくりと溶かしていった。
「……っ……」
気づけば涙が頬を伝っていた。止めようとしても次々にあふれ出る涙は、自分でもどうしようもなかった。
「ごめんなさい……私……っ」
声が途切れ、しゃくり上げる。嗚咽混じりの言葉は、訳のわからない音になって消えていった。
そんな私を慰めるように、彼がそっと隣に座った。
「無理しなくていいよ。話したいことがあれば聞くし、何も言いたくないなら、それでいい。ゆっくり休んで」
彼の声は、まるで春の日差しのように穏やかで、押し付けがましさも、無理に励まそうとする力もなかった。
ただ寄り添うだけのその言葉に、胸がきゅっと締めつけられる。
彼はためらいもなく腕を伸ばし、温かな手が私の背中を優しく包み込んだ。
今日初めて会った人だと言うのに、どうしてか安心する、温かい手だった。
「大丈夫だから」
耳元で囁かれたその言葉に、張り詰めていた心の糸がぷつりと切れた。
彼の手が背中をトントンと叩くたび、心の奥深くに閉じ込めていた痛みが少しずつほどけていく。
ずっと苦しかった。何ヶ月も、何年も。心を凍らせなければ、自分が壊れてしまいそうで。
気づけば、涙で乱れた髪をそのままに、彼の胸に身を委ねていた。
聞こえてくる穏やかな心臓の音に合わせるように、乱れていた私の呼吸が少しずつ整っていく。
「……ありがとう……」
途切れ途切れの声で呟くと、彼は何も言わず、抱きしめる力をほんの少しだけ強めた。その温かさにすがるように、私はそっと彼の背中に手を回す。
そしていつの間にか、私は深い眠りに落ちていた。夢うつつの中でも、彼の優しさだけは確かにそこにあった。
その優しい香りに、思わず足が止まった。
「……ありがとうございます」
ようやくそれだけを口にする。彼は軽く頷いただけで、何も言わなかった。
ハーブティーを一口飲むと、ほんのりとした甘みが口の中に広がる。それは冷え切っていた体を内側からそっと温めてくれるようで、無理に凍らせていた私の心を静かに、ゆっくりと溶かしていった。
「……っ……」
気づけば涙が頬を伝っていた。止めようとしても次々にあふれ出る涙は、自分でもどうしようもなかった。
「ごめんなさい……私……っ」
声が途切れ、しゃくり上げる。嗚咽混じりの言葉は、訳のわからない音になって消えていった。
そんな私を慰めるように、彼がそっと隣に座った。
「無理しなくていいよ。話したいことがあれば聞くし、何も言いたくないなら、それでいい。ゆっくり休んで」
彼の声は、まるで春の日差しのように穏やかで、押し付けがましさも、無理に励まそうとする力もなかった。
ただ寄り添うだけのその言葉に、胸がきゅっと締めつけられる。
彼はためらいもなく腕を伸ばし、温かな手が私の背中を優しく包み込んだ。
今日初めて会った人だと言うのに、どうしてか安心する、温かい手だった。
「大丈夫だから」
耳元で囁かれたその言葉に、張り詰めていた心の糸がぷつりと切れた。
彼の手が背中をトントンと叩くたび、心の奥深くに閉じ込めていた痛みが少しずつほどけていく。
ずっと苦しかった。何ヶ月も、何年も。心を凍らせなければ、自分が壊れてしまいそうで。
気づけば、涙で乱れた髪をそのままに、彼の胸に身を委ねていた。
聞こえてくる穏やかな心臓の音に合わせるように、乱れていた私の呼吸が少しずつ整っていく。
「……ありがとう……」
途切れ途切れの声で呟くと、彼は何も言わず、抱きしめる力をほんの少しだけ強めた。その温かさにすがるように、私はそっと彼の背中に手を回す。
そしていつの間にか、私は深い眠りに落ちていた。夢うつつの中でも、彼の優しさだけは確かにそこにあった。



