敏腕システムエンジニアの優しすぎる独占欲〜誰にでも優しい彼が、私にだけ甘すぎる〜

「こんな雨の中で放っておくなんてできないだろ。どこか行くあてはある?」

その問いかけに、答えられる言葉を持っていなかった。

行くあて……。今日私は、どこへ帰ればいいのだろう。

俯いたまま黙り込む私に、彼が小さくため息をつく気配がした。

次の瞬間、ふわりと膝が浮いた。

「……え?ちょっと、何してるんですか!?」

疲れきった心が突然鮮明になる。驚いて声を上げると、彼は苦笑しながら私を抱え上げた。

「濡れて風邪でも引いたら困るだろ?ただの雨宿りだよ。嫌なら、帰る方向を教えてくれる?」

押しつけがましさのないその声は、不思議と温かかった。けれど、その優しさがかえって胸を締めつける。

泣きそうになるのを堪えながら、かろうじて一言だけ口を開いた。

「帰る場所、ないんです」

自分で言った言葉が、胸をズキリと痛ませる。
彼は何も言わず、少しだけ力を込めて私を抱え直すと、歩き出した。

不思議と、不信感や恐怖はなかった。

いや、本当は少しだけ警戒していたのかもしれない。
でも、それ以上に、自暴自棄になっていた私には選ぶ余地などなかった。

あの家に帰らなくて済むなら、もうどうなってもいい。

そんな投げやりな気持ちで取ったその手が、まさか私の人生を大きく変える扉になるなんて、このときの私は想像すらできなかった。