敏腕システムエンジニアの優しすぎる独占欲〜誰にでも優しい彼が、私にだけ甘すぎる〜

車を降りた瞬間から、私たちは空港の出発ロビーを息を切らしながら駆け抜けていた。

「柊真、早く!ギリギリになっちゃう!」

私が焦って声をかけると、彼は肩越しに笑いながら軽く息をついた。

「お前が家を出る前に、書類を見直すとか言うからだろ」
「だって、気になるんですもん! あのプロジェクト、大事な局面ですし……」

口を尖らせながら言い訳するも、今さらどうしようもない。なんとか搭乗口にたどり着き、スタッフに案内されながら最後の乗客として機内に滑り込んだ。

席に腰を下ろすと、ようやく安堵の息が漏れる。

「はぁ、間に合ってよかった……」

リクライニングを少し倒した柊真が、私の横でくつろぎながら問いかけた。

「ヨーロッパか、茉莉は初めてだよな?」
「うん! フランスからスタートして、イタリア、スペインにも行けるなんて本当に楽しみ」

ワクワクしながら行きたい場所を挙げているうちに、つい仕事の話へと脱線してしまう。

「でも、この間の取引先がフランスの企業だったから、ついでに現地の市場調査も――」

言い終わる前に、柊真が身を乗り出し、私の言葉を遮るように囁いた。

「もう、仕事はおしまい」

その言葉とともに、唇に温かい感触がする。

――えっ?

すぐに去ったその感覚に頭が真っ白になった。頬が熱くなるのを感じながら、思わず彼を見つめる。

「茉莉、待たせて悪かった。今日からの旅行は思う存分楽しもう、仕事はなし」

低く落ち着いた声が、心の奥に響く。

「……はい」

気がつけば、素直に頷いていた。