背後から、重い足音が近づいてくる。
振り向くと、上司が険しい顔で立っていた。
「社内の情報が外部に漏れた件について、話がある。会議室に来い」
ただならぬ気配に、嫌な予感が全身を駆け巡る。
会議室に入ると、すでに数人の管理職が待ち構えていた。
「説明してもらおうか。片桐の新事業、どういうことだ?」
「……私も今朝初めて知りました。まさか、アイデアを持ち出していたなんて――」
纏まらない頭のまま、なんとか事態を把握して言葉を紡ぐ。
「だが、あの企画はお前が中心になって進めていたものだろう?」
「それはそうですが……。待ってください、私は社外に持ち出したりしてません!」
必死に訴えるが、上司の目は鋭かった。
「証拠は?」
俺が企画を立ち上げ、資料を作成し、何度もブラッシュアップした事実。
けれど、それを片桐が盗んだと証明できるものは?
「……もしかして、退職前にアクセス権を利用して全部コピーしていたのか……?」
気づいた時には、もう遅かった。
「社外流出が事実なら、社内管理責任も問われる。今回の件について、調査が終わるまでお前はプロジェクトから外れる」
「待ってください! 俺は何もして――」
「決定事項だ」
冷たく言い放たれ、返す言葉が見つからなかった。
それから数ヶ月後。街の本屋に並ぶビジネス誌の表紙に、片桐の顔があった。
「片桐拓真、若き天才経営者――業界を革新する新サービスの仕掛け人」
俺が夢をかけたアイデアを、こいつは何食わぬ顔で「自分の成功」として世に売り出した。
このプロジェクトで、俺はすべてを失ったのに。
悔しさも、怒りも、とうに通り越していた。あるのはただ、深い虚無感だけ。
「……努力なんて、奪われるためにあるものだったんだな」
その瞬間、俺の中で何かが決定的に壊れた。
そして、心のどこかで、人を信じることをやめた。
振り向くと、上司が険しい顔で立っていた。
「社内の情報が外部に漏れた件について、話がある。会議室に来い」
ただならぬ気配に、嫌な予感が全身を駆け巡る。
会議室に入ると、すでに数人の管理職が待ち構えていた。
「説明してもらおうか。片桐の新事業、どういうことだ?」
「……私も今朝初めて知りました。まさか、アイデアを持ち出していたなんて――」
纏まらない頭のまま、なんとか事態を把握して言葉を紡ぐ。
「だが、あの企画はお前が中心になって進めていたものだろう?」
「それはそうですが……。待ってください、私は社外に持ち出したりしてません!」
必死に訴えるが、上司の目は鋭かった。
「証拠は?」
俺が企画を立ち上げ、資料を作成し、何度もブラッシュアップした事実。
けれど、それを片桐が盗んだと証明できるものは?
「……もしかして、退職前にアクセス権を利用して全部コピーしていたのか……?」
気づいた時には、もう遅かった。
「社外流出が事実なら、社内管理責任も問われる。今回の件について、調査が終わるまでお前はプロジェクトから外れる」
「待ってください! 俺は何もして――」
「決定事項だ」
冷たく言い放たれ、返す言葉が見つからなかった。
それから数ヶ月後。街の本屋に並ぶビジネス誌の表紙に、片桐の顔があった。
「片桐拓真、若き天才経営者――業界を革新する新サービスの仕掛け人」
俺が夢をかけたアイデアを、こいつは何食わぬ顔で「自分の成功」として世に売り出した。
このプロジェクトで、俺はすべてを失ったのに。
悔しさも、怒りも、とうに通り越していた。あるのはただ、深い虚無感だけ。
「……努力なんて、奪われるためにあるものだったんだな」
その瞬間、俺の中で何かが決定的に壊れた。
そして、心のどこかで、人を信じることをやめた。



