敏腕システムエンジニアの優しすぎる独占欲〜誰にでも優しい彼が、私にだけ甘すぎる〜

片桐と会ったのは、夕方のカフェだった。

大きな窓から差し込むオレンジ色の光が、落ち着いた店内をやわらかく照らしている。

控えめなジャズが流れる中、中央のワインレッドのソファに片桐はゆったりと腰掛けていた。

高級そうなスーツを身にまとい、余裕たっぷりの笑みを浮かべながらも、目元には冷たい光が宿っている。

「来てくれて嬉しいよ、木崎茉莉さん」

片桐は穏やかな口調で言いながら、向かいの席を手で示した。
私は一瞬だけためらったものの、深く息を吸い、静かに腰を下ろす。

「こちらこそ、ありがとうございます」

そう毅然と言い切るつもりだったのに、ほんのわずかに声が震えた。

「そんなに緊張しなくてもいいのに」

片桐は軽く笑い、指先でグラスの縁をなぞる。

「昨日会って、君のことが気になったんだよね」
「……私のことを?」

意外な言葉に、思わず聞き返してしまう。

「藤堂のそばにいる人間として、ね」

片桐は意味ありげに微笑んだ。

どういう意図かは分からないけれど、彼が少なからず柊真さんに注目していることが感じられて、形容しがたい気持ち悪さを感じる。

「藤堂は昔から、よほど信頼できる人間しかそばに置かない。なのに、君みたいに若くて経験の浅い秘書を選んだ。それが不思議で仕方ないんだ」

私は無意識に指を組み、膝の上で強く握った。

「それは……私の仕事を認めてくださったから……」

そう答えると、片桐はふっと小さく笑った。